酪酸菌を増やすには?増えすぎると危険?!
大腸内で酪酸を産生する酪酸菌は、健康への効果があるとして近年注目されている腸内細菌です。
今回のコラムでは、酪酸菌の効果や増やし方、酪酸菌が増えすぎた場合のデメリットについてご紹介いたします。
目次[非表示]
- 1.酪酸菌とは?その効果と役割
- 2.酪酸菌が健康へ及ぼす影響
- 3.酪酸菌を増やす4つの方法
- 3.1.酪酸菌を増やす食べ物をとる
- 3.2.酪酸菌そのものを摂取する
- 3.3.ビタミンDを摂取する
- 3.4.適度な運動
- 4.酪酸菌が多すぎると危険?酪酸の副作用は?
- 4.1.酪酸菌には悪い菌もいる
- 4.2.高濃度の酪酸は危険!
- 5.健康的な腸内環境は腸内細菌のバランスが大切!
- 6.まとめ
- 7.参考文献
酪酸菌とは?その効果と役割
酪酸産生菌(酪酸菌)とは、食物繊維などを分解して酪酸を産生する菌の総称です。
大腸内で酪酸菌によって産生された酪酸には、次のような様々な働きがあります。
・腸粘膜のバリア機能の維持:このバリア機能によって、有害な菌や物質が体内に侵入するのを防ぐ。
・腸内を弱酸性化:弱酸性の環境では有害な菌の増殖が抑えられ、ビフィズス菌や乳酸菌などが増えやすくなる。また、カルシウムなどのミネラルが溶けやすくなり、これらの吸収率が高くなる。
・大腸粘膜上皮細胞の主要なエネルギー源:蠕動運動を促進し、排便を促す。
・免疫系を調整:制御性T細胞の分化誘導や短鎖脂肪酸受容体を活性化し、炎症の制御、恒常性の調整、エネルギー代謝を促す1),2)。
酪酸菌や酪酸の働きについては、以下のコラムでも詳しくご紹介しております。
コラム:「腸内細菌の代謝産物「酪酸」の働き~酪酸菌とは?~」
酪酸菌が健康へ及ぼす影響
このような様々な働きをする酪酸を産生する酪酸菌ですが、酪酸菌と健康との関係について様々な研究が行われています。
例えば、大腸がんや炎症性腸疾患、2型糖尿病の人では、大腸内の酪酸菌の割合や酪酸濃度が健常な人より低いことが報告されています3)–7)。
また、100歳以上の高齢者が多い長寿地域の健康な高齢者は、都市部の高齢者よりも酪酸菌の割合が有意に高かったとの報告があります8)。
これらのことから、大腸内の酪酸菌を増やすことが、大腸がんなどの疾病の予防や長寿に効果的なのではないかと考えられ、近年着目されています。
酪酸菌を増やす4つの方法
酪酸菌を増やすより、酪酸菌が産生する酪酸を直接摂取したほうが効率的と考える方も多いかもしれません。
しかし、口から摂取した酪酸は、胃や小腸で吸収されてしまい大腸にはほとんど届きません。
そのため、大腸内で酪酸を産生する酪酸菌が重要となります。
では、酪酸菌を増やすにはどのような方法があるのでしょうか?
ここでは酪酸菌を増やす主な方法を4つご紹介します。
酪酸菌を増やす食べ物をとる
酪酸菌を増やすには、酪酸のエサとなる食品(プレバイオティクス)を摂るのが良いでしょう。
食物繊維やオリゴ糖、レジスタントスターチなどの難消化性デンプンを含む食品は、酪酸菌の栄養源となるため、酪酸菌を効果的に増やすことができます9)–11)。
酪酸菌そのものを摂取する
酪酸菌を含む食品(プロバイオティクス)を摂るのも良いでしょう。具体的には、ぬか漬けや臭豆腐が知られています。
ただ、このような食品を継続的に摂ることは難しい場合もあるので、酪酸菌を含むサプリメントや整腸剤を利用するのもよいでしょう。
ビタミンDを摂取する
血中の活性型ビタミンD濃度が高い人は、その濃度が低い人と比べて、酪酸菌の割合が多いという報告があります12)。
そのため、ビタミンDを食事やサプリメントから補給すると、腸内の酪酸菌の維持に効果的である可能性があります。
適度な運動
適度な運動や規則正しい生活によって自律神経を整えることは、酪酸菌が増えるのに適した腸内環境づくりに効果的です。
自律神経が整うと、腸の蠕動運動もスムーズとなり排便が促されるので、腸内環境の改善も期待できます。
逆に、蠕動運動が低下すると、下痢や便秘などを起こしやすくなるので、適切な運動が大切です。
酪酸菌が多すぎると危険?酪酸の副作用は?
ここまで酪酸菌が健康に与えるポジティブな効果について説明してきましたが、酪酸菌は多ければ多いほど良いのでしょうか?
酪酸菌が増えて酪酸の濃度が高くなりすぎた場合、腸に危険が及ぶのでしょうか?
以下では、酪酸菌の危険性について、菌の種類や酪酸濃度の観点からこれまで報告されている研究をご紹介します。
酪酸菌には悪い菌もいる
実は、酪酸菌の中には健康に有害な影響を与えるものもいます。
例えば、酪酸菌のうち、歯周病菌として知られるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)は口腔内で増殖する菌です。
この菌が、上部消化管や大腸へも到達して健康に悪影響を与えることが知られており、食道がんと関連性があることや、大腸がんの腫瘍形成を促進する可能性が報告されています13),14)。
また、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)は口腔内に常在する日和見菌ですが、歯周病など口腔内の疾病だけでなく、虫垂炎、心膜炎、脳膿瘍など様々な感染症に関与することが報告されています15)。
F. nucleatumも大腸内で酪酸を産生する酪酸菌ですが、大腸がんの発症や進行に関与していることが報告されています16),17)。
したがって、これらのがんおよび感染症のリスクを抑えるためには、口腔内環境にも気を付ける必要があります。
多くの酪酸菌は基本的には問題がないものですが、上記のように健康に悪い影響を与える酪酸菌もあります。
人によっては悪い酪酸菌の割合が高い場合もあるので、腸内細菌叢(腸内フローラ)を検査してその構成を知っておくことが重要です。
高濃度の酪酸は危険!
Pengらの研究から、最適な濃度の酪酸(2mM)は、腸のバリア機能を促進しますが、高濃度の酪酸(8mM)は、腸のバリア機能を破壊することがわかりました18)。
この研究は試験管内で行われたものなので実際の生体内にて同様の影響があるかは明らかではありませんが、バリア機能を維持するための酪酸には最適な濃度があり、過度な濃度では逆にバリア機能が損なわれる恐れがあります。
健康的な腸内環境は腸内細菌のバランスが大切!
健康的な腸内環境のためには、酪酸菌と他の腸内細菌とがバランスよく保たれていることが大切です。
冒頭でお示ししたように、酪酸は腸内を弱酸性にすることで、有害な細菌の増殖を抑え、ビフィズス菌や乳酸菌が増えやすい腸内環境をつくるのに役立っています。
また、酪酸菌と共存関係(クロスフィーディング)にあるビフィズス菌が、酪酸の産生に重要とされています。
具体的には、酪酸菌が利用できない物質をビフィズス菌が分解し、そのときに産生された物質を酪酸菌が利用することで酪酸を産生することができるのです19)。
そのため、ビフィズス菌の入ったヨーグルトなどを摂ることも、間接的に酪酸を産生することになります。
このように、腸内では様々な腸内細菌が相互に作用していることから、腸内環境を健やかに保つためには腸内細菌のバランスが重要となります。
腸内細菌叢のバランスを維持・改善するには、食物繊維が豊富でバランスの良い食事や、プロバイオティクス食品を適度に摂ることが効果的です。
また、サプリメントや整腸剤を利用する場合は、酪酸菌、ビフィズス菌、乳酸菌といった複数の菌が配合されたものを選ぶのも良いでしょう。
まとめ
様々な健康効果が示されている酪酸。
直接摂取することは難しいですが、酪酸菌を増やす食事を心掛けたり、酪酸菌を含むサプリメントなどを利用したりすることで、腸内の酪酸の濃度を維持することができます。
ただし、酪酸菌ばかりが多くなって腸内細菌叢のバランスが崩れたり、酪酸の濃度が高くなり過ぎたりすると、健康に悪影響があることもわかりました。
まずは腸内に酪酸菌がどのくらいいるのかを調べてみてはいかがでしょうか。
当社の腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」では、酪酸産生菌や乳酸産生菌などの割合がわかるだけではなく、腸内細菌叢のバランスを知ることもできます。
腸からの健康を目指すために、是非ご活用ください。
参考文献
1)Furusawa, Y. et al. Nature 504, 446–450 (2013).
2)Corrêa-Oliveira, R. et al. Clinical & Translational Immunology 5, e73 (2016).
3)Reis, S. A. dos et al. Journal of Medical Microbiology 68, 1391–1407 (2019).
4)Takaishi, H. et al. International Journal of Medical Microbiology 298, 463–472 (2008).
5)Sokol, H. et al. Inflammatory Bowel Diseases 15, 1183–1189 (2009).
6)Kaźmierczak-Siedlecka, K. et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci 27, 1443–1449 (2023).
7)Qin, J. et al. Nature 490, 55–60 (2012).
8)Naito, Y. et al. J Clin Biochem Nutr 65, 125–131 (2019).
9)Akagawa, S. et al. Ann Nutr Metab 74, 132–139 (2019).
10)Sato, S. et al. Microorganisms 10, 1813 (2022).
11)Xu, J. et al. Food Science and Human Wellness 12, 2344–2354 (2023).
12)Thomas, R. L. et al. Nat Commun 11, 5997 (2020).
13)Peters, B. A. et al. Cancer Res 77, 6777–6787 (2017).
14)Wang, X. et al. Cancer Research 81, 2745–2759 (2021).
15)Chen, Y. et al. Front. Cell. Infect. Microbiol. 12, (2022).
16)Zhou, Z. et al. Front. Oncol. 8, (2018).
17)Yu, T. et al. Cell 170, 548-563.e16 (2017).
18)Peng, L. et al. Pediatr Res 61, 37–41 (2007).
19)Falony, G. et al. Appl Environ Microbiol 72, 7835–7841 (2006).
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