Bacillus(バシラス)やClostridium(クロストリジウム)など、いくつかの細菌では芽胞(がほう)と呼ばれる特徴的な構造体を細胞内につくります。芽胞の中には生存に必要なDNAなどが格納されています。芽胞は厳しい環境下で生き抜く(長期間休眠する)ための構造であり、熱、乾燥、酸、消毒剤、放射線などに対する高い抵抗力をもちます。
芽胞の状態であれば細菌は長期間にわたって生存することができます。そして、芽胞は環境が改善されたことを感知すると、発芽して、もとの増殖可能な細胞の状態に戻ります。これまでに、2500~4000万年前の琥珀に閉じ込められたハチの腸内の細菌が芽胞のおかげで生存し、現代でも培養可能であったことが報告されています。
このように芽胞は耐性が極めて高いため、芽胞をつくることができる細菌は滅菌が難しくなります。このことが、ボツリヌス菌やウェルシュ菌などの食中毒の原因となる細菌において、しばしば問題になります。
一方で、細菌の芽胞形成能力が私たちの生活に役立つこともあります。納豆菌は芽胞をつくる細菌のひとつです。納豆の製造では、大豆を蒸煮した後、高温のうちに熱に耐性がある納豆菌の芽胞の接種を行います。これにより、熱に耐性のない雑菌の混入が防止され、発酵工程で生育する微生物を納豆菌のみにすることができます。