アレルギーと腸内細菌
日本では、2人に1人が、花粉症やアトピー性皮膚炎など何らかのアレルギー性疾患に罹患しているといわれており、いまや「アレルギー」は国民病となりました。
実は、そんなアレルギー性疾患も腸内細菌と関連し、腸内環境に影響を与える可能性が指摘されています。
今回は、その2つの関連性についてご紹介しましょう。
アトピーなどのI型アレルギーに腸内細菌が関連
まず、アレルギー反応は以下の4タイプに分類することができます。
Ⅰ型(即時型、IgE媒介性)
Ⅱ型(細胞傷害型、IgG/IgM媒介性)
Ⅲ型(免疫複合体型、IgG/IgM媒介性)
Ⅳ型(遅延型、感作T細胞媒介性)
一般的にアレルギー性疾患として挙げられることの多い、花粉症、アトピー、食物アレルギー、蜂毒アレルギーは、Ⅰ型アレルギーに分類されると考えられています。
このⅠ型アレルギーの発症や症状の進行に腸内細菌が関連する可能性があると、多くの研究報告が発表されています。
アナフィラキシー型アレルギーとも呼ばれるⅠ型アレルギーは、血中や組織中のマスト細胞および好塩基球上の高親和性IgE受容体と結合したIgE抗体にアレルゲンが結合することで、マスト細胞や好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、各組織において平滑筋収縮、血管透過性亢進、鼻水や涙目といった腺分泌の亢進などのアレルギー反応を生じます。
では、なぜアレルギー性疾患は発症するのでしょうか。
その原因として挙げられる考えのひとつに「衛生仮説」があります。
これは、小児期に微生物に触れる機会が少ない衛生的な環境で過ごすと、アレルギー性疾患を発症しやすくなるというものです。
免疫反応の司令塔であるヘルパーT細胞は小児期には未発達ですが、細菌やウイルスが侵入するとTh1細胞に分化し、アレルゲンが侵入するとTh2細胞に分化します。
しかしながら、小児期に細菌に触れる機会が少ないと、Th1/Th2のバランスが崩れてTh2細胞が優位となり、その結果、本来攻撃の必要のない食品や花粉などに対して過剰に反応してしまうのです。
これがアレルギー性疾患発症のメカニズムと考えられています。
そのTh2の反応を高める要因としては、抗生物質の使用、都会の衛生的な環境、年長のきょうだいが少ないこと、ペットを飼育していないことなども報告されています。
こうしたTh1/Th2免疫細胞のバランスは小児期に形成され、成人後は細菌に触れても、劇的に変化することはないそうです。
アレルギー性疾患患者と健常者の腸内細菌叢には明らかな違いが
一方、アレルギー性疾患は成人においても増加してきています。
その原因としては、小児期に発症した場合に加えて、食習慣、運動不足、喫煙、精神的ストレスなどにより目や鼻、気管支の粘膜や皮膚に炎症が生じていることが挙げられています。
そして、これらの原因以外にも、腸内細菌叢(腸内フローラ)にディスバイオシス(バランスが乱れた状態)が生じることで、体内にアレルゲンが侵入し、アレルギー反応を引き起こすことも原因のひとつとなっていると考えられています。
(コラム「ディスバイオシスと疾病の関連性」参照)
ほかにも腸内細菌叢とアレルギーの関係については多くの研究報告があり、アレルギー性疾患患者と健常者の腸内細菌叢を比較すると、腸内細菌叢の多様性に違いがあることや、特定の腸内細菌の占有率に有意差があることなどが示されています。
たとえば2015年のHuaらの研究によると、American Gut Projectで公開されているデータから米国の成人1879名を抽出して分析した結果、すべてのアレルギー性疾患患者において腸内細菌叢の多様性が減少していること、そして特に、季節性アレルギー、薬物アレルギー、ピーナッツアレルギーにおいて、その傾向が顕著であったことが報告されています。
Huaらは、アレルギー性疾患と腸内細菌の関連性について、前述の衛生仮説やディスバイオシスが原因のひとつであると考察しています。
また、ディスバイオシスが生じる原因の一例として帝王切開による出産を挙げており、自然分娩で生まれた乳児と比較して、帝王切開で生まれた乳児は、Bacteroidetes(バクテロイデーテス)門のコロニー形成が有意に遅延し、Th1細胞が産生するサイトカイン(CXCL10、CXCL11)の血中レベルが低下していたことや、帝王切開で生まれた乳児ではアレルギーの発症率が高いという先行研究を紹介しています。
Huaらの研究以外でも、アレルギー性疾患患者の腸内細菌叢は、健常者と比較して、多様性が有意に低いという結果や、一部のBacteroides(バクテロイデス)属が有意に多いという結果、また、一部の酪酸産生菌(酪酸菌)が有意に少ないという結果が、それぞれ複数の研究で報告されています。
酪酸には、腸管のエネルギー源として利用されるほか、腸管上皮細胞のタイトジャンクションを整えて腸管バリア機能を強化したり、免疫反応の過剰な亢進を抑制するTreg細胞を活性化したりするという、宿主にとって有益な働きがあります。
そのため、酪酸の産生量低下もまた、アレルギー性疾患の発症や症状の進行と関連性があると考えられています。
このように、多くの人を苦しめるアレルギーと、腸内細菌叢には密接な関係があるのです。
次回のコラムでは、このようなアレルギー性疾患に対して、腸内細菌叢から治療する取り組みなど、治療に関する今後の展望について触れていきます。
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