腸内細菌叢(腸内フローラ)を介したアレルギー治療|花粉症、アトピー、食物アレルギー


腸内細菌叢を介したアレルギー治療


前回のコラムでは、アレルギー性疾患と腸内細菌の間には関連性があることが明らかになってきているとお話ししました。(コラム「アレルギーと腸内細菌」参照)


そうしたなか、腸内細菌がアレルギー性疾患治療の新たな“カギ”になるとの期待も高まっています。


そこで今回は、腸内細菌叢(腸内フローラ)を介したアレルギー治療法の開発に向けて、どのような研究が行われているのかをご紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.花粉症に関する研究
  2. 2.アトピー性皮膚炎に関する研究
  3. 3.食物アレルギーに関する研究
  4. 4.糞便移植による治療の可能性
  5. 5.今後の展望


花粉症に関する研究


日本人のおよそ4人に1人がスギ花粉症だといわれていますが、特定のプロバイオティクスの摂取により、スギ花粉症の症状が緩和する可能性があるようです。


花粉症の時期、スギ花粉症患者の腸内ではBacteroides fragilis(バクテロイデス フラジリス)とBacteroides intestinalis(バクテロイデス インテスティナリス)という2種類の腸内細菌が増加するという傾向が報告されています。


この増加と花粉症の症状に関連する抗体(IgE)には相関性があり、この2種類の腸内細菌の増加が症状の悪化につながる可能性があるというのです。


ここで注目したいのが、日本のスギ花粉症患者にプロバイオティクスとしてBifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム ロンガム) BB536株を含むヨーグルトを、毎日継続的に摂取してもらった研究の結果です。


この結果では、腸内でのBacteroides fragilisなどの増殖が抑制され、鼻水や鼻づまりといった花粉症の症状が軽減されたそうです。


アトピー性皮膚炎に関する研究


アトピー性皮膚炎は、乳幼児に比較的多くみられる皮膚の病気ですが、その患者の腸内では、健常者に比べてBifidobacterium(ビフィドバクテリウム)属の占有率が低く、皮膚炎の重症度が高いほど、その占有率が低い傾向にあるという報告があります。


乳児のアトピー性皮膚炎に関しては、以下のようなことがわかっています。


乳児期初期におけるClostridium difficile(クロストリジウム ディフィシル[現在の分類ではClostridioides difficile〈クロストリジオイデス ディフィシル〉])の腸内への定着がアトピー性皮膚炎の発症に関連すること。


生後1カ月での腸内微生物叢の多様性の低さ、特にBacteroidetes(バクテロイデーテス[現在の分類ではBacteroidota〈バクテロイドータ〉])門に分類される腸内細菌の多様性の低さが、2歳での発症に関連していること。


また、乳児のアトピー性皮膚炎の発症を予防する方法として、母親が出産前後にプロバイオティクス(Lactobacillus[ラクトバシラス]属とBifidobacterium属の菌株)を摂取することが有効な可能性があるとの報告があります。


食物アレルギーに関する研究


食物アレルギーは特定の食物を食べた場合に起こるアレルギーで、小児、特に低年齢児に多くみられますが、この発症や経過にも腸内細菌叢が重要な要因となっていると考えられています。


例えば、牛乳アレルギーの自然経過を生後3カ月から8歳まで追跡調査した研究では、生後3~6カ月の腸内細菌叢の組成は、8歳までの牛乳アレルギーの改善と関連していたことが報告されています。


さらにこの研究では、牛乳アレルギーが自然に改善された子どもの腸内細菌叢は、Clostridia(クロストリジア)綱とFirmicutes(ファーミキューテス[現在の分類ではBacillota〈バシロータ〉門])門が豊富であったことが報告されており、これらが牛乳アレルギーの改善に関連している可能性があるようです。


治療法に関する研究としては、牛乳アレルギーの子どもにプロバイオティクスとしてLactobacillus rhamnosus(ラクトバシラス ラムノサス[現在の分類ではLacticaseibacillus rhamnosus〈ラクティカゼイバシラス ラムノサス〉]) GG株と、加水分解されたカゼインを組み合わせて摂取させた結果、牛乳アレルギーの改善を早めることができたという報告があります。


ほかの食物アレルギーの治療法としては、ピーナッツアレルギーの子どもを対象に、プロバイオティクス(Lactobacillus rhamnosus)の摂取による治療と、ピーナッツ経口免疫療法を組み合わせることで効果を示したという研究報告もあります。


糞便移植による治療の可能性


糞便移植(FMT)は、健常者から提供された糞便に存在する腸内微生物を患者に移植し、腸内細菌叢を変化させる治療法で、2013年、難治性の再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症に対する治療効果が報告されたことを契機に、脚光を浴びるようになりました。


アレルギー性疾患の治療に関しては、2017年に中国の研究チームによって、アレルギー性腸炎の小児19名に対して糞便移植を実施し、症状の緩和と腸内細菌叢の顕著な変化がみられたことが報告されています。


ただし、現在の糞便移植には、感染症を含めた疾患の伝播リスクや、健常なドナーの確保など、さまざまな課題が存在しているのも事実です。


今後の展望


今回ご紹介した治療法をはじめ、腸内細菌叢を介したアレルギー治療については、いままさに世界中でさまざまな研究が行われています。


革新的な治療法が開発されることへの期待が高まりますが、その治療法のほとんどは現在も研究段階で、実際に私たちが治療として受けられるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。


そして、この腸内細菌叢を介した治療は、腸内細菌叢が一人ひとり異なるため、個人に合わせて最適な治療法を選択したり、カスタマイズしたりする必要があるでしょう。


そのような観点からすると、こうした治療は“個別化医療”といえます。


近い将来、アレルギー性疾患に対しては、病院で腸内細菌叢の検査を受け、その結果をもとに、それぞれの腸内細菌叢に合わせたオーダーメイドの治療が施されるようになるかもしれません。



参考文献
Liu, S.-X. et al. World J. Gastroenterol. 23, 8570–8581 (2017).
Lunjani, N. et al. Allergy 73, 2314–2327 (2018).
Odamaki, T. et al. Appl. Environ. Microbiol. 74, 6814–6817 (2008).
Xiao, J.-Z. et al. Clin. Exp. Allergy 36, 1425–1435 (2006).
水野慎大, 金井隆典. 日本内科学会雑誌 107, 2176-2182 (2018).



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