腸内細菌から軽度認知障害(MCI)を防ぐ~認知症に進行させないために~
以前より物忘れが増えた気がする……。
もしかすると、それはMCI(Mild Cognitive Impairment、軽度認知障害)かもしれません。
MCIとは、認知機能の低下はあるものの、認知症には至らず、日常生活に支障がない状態です。
しかしながら、MCIの状態を放置すると認知症に進行するリスクが高いことが知られており、MCIの状態にある人は「認知症予備群」ともいわれます。
認知症まで進んでしまうと回復は困難ですが、MCIでは正常な認知機能に戻る場合があります。
そのため、MCIの段階で適切な対策を行うこと、あるいはそもそもMCIにならないようにすることが、認知症の予防につながります。
実は当社のこれまでの研究によって、腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常がMCI発症に関連していることがわかってきました。
このことは、腸内細菌叢を改善させることによってMCIを予防・改善することができる可能性がある、ということを意味します。
そこで今回のコラムでは、MCIと腸内細菌叢の関連性についてご説明します。
MCIと腸内細菌叢の関連
当社では、MCIと腸内細菌叢との関連を解明することを目的として、日本人の70代のMCI罹患者群と健康な対照群の腸内細菌叢を比較する研究に取り組み、その研究成果を2023年6月に論文発表しました。
この研究から、MCI罹患者群には特徴的なディスバイオシス(dysbiosis、腸内細菌叢の異常)が起きていることがわかりました。
具体的には、MCI罹患者群の腸内細菌叢では、対照群と比較してClostridium_XVIII(クロストリジウム_XVIII)、Eggerthella(エガセラ)、Erysipelatoclostridium(エリシペラトクロストリジウム)、Flavonifractor(フラボニフラクター)、Ruminococcus 2(ルミノコッカス2)に分類される細菌が多いことが観察されました。
その一方で、Megasphaera(メガスファエラ)、Oscillibacter(オシリバクター)、Prevotella(プレボテラ)、Roseburia(ロゼブリア)、Victivallis(ビクチバリス)に分類される細菌が少ないことが特徴として観察されたのです。
この腸内細菌に関する情報から、MCI罹患者では以下のような異常が生じていると考えられます。
1. 腸内細菌叢の調節異常
- 腸内細菌叢の組成に影響を与える胆汁酸の疎水性:親水性バランスが変化
- 酢酸の減少による腸管内のpH上昇
- 腸内細菌叢の制御などに重要な抗体(IgA)の分解
2. 腸管バリアの透過性増大
- 腸管上皮細胞を保護する粘液成分(ムチン)の分解
- 腸管バリア機能の回復力の低下
3. 血液脳関門の透過性増大
- 腸由来のセロトニンの増加(セロトニンは血液脳関門の透過性増大に関連)
4. 神経炎症の亢進
- 腸内細菌由来の物質が腸管バリアと血液脳関門を透過して、脳内での炎症の要因に
- 過剰なヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)活性による、エピジェネティックな制御異常に起因する神経炎症
- 抗炎症作用を有する水素の減少
これらの現象が複合的に生じ、その異常が長期間持続することによって脳へのダメージが蓄積し、最終的には認知機能の低下につながる可能性があります。
MCIの予防や回復のカギは腸内細菌叢にあり
上述した腸内細菌叢との関連を考慮すると、MCIの予防には、ディスバイオシスが生じないように日ごろから食生活などの生活習慣に気をつけることが有効と考えられます。
また、すでにMCIに罹患している状態であったとしても、腸内細菌叢を改善させることで認知機能を回復させ、認知症への進行を抑制できる可能性があります。
当社の腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」「健腸ナビ」では、今回ご紹介した研究成果をもとに、腸内細菌叢からMCIのリスクを分析することができます。
MCIのリスクが高いことは、腸内細菌叢がMCI罹患者の腸内細菌叢のバランスや特徴と似ていることを意味しており、MCIの早期発見に役立ちます。
さらに、リスクが高い場合に示される推奨食品(成分)の摂取により、腸内細菌叢を変化させることでMCIのリスクを下げることができると考えられます。
総務省統計局による2022年9月の推計によると、日本では65歳以上の高齢者が総人口に占める割合が29.1%にもなっており、今後もその割合は増加すると推計されています。
高齢化が進む日本において認知症罹患者の増加は大きな社会問題です。
その増加を食い止めるためには、認知症の前段階にあるMCIを早期発見し、食生活を見直すなどして腸内細菌叢を改善していくことが必要です。
参考文献
Hatayama, K. et al. Biomedicines 11, 1789 (2023).
統計局ホームページ/人口推計(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.html).
当社が提供している腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」(医療機関向け)および「健腸ナビ」(一般個人向け)では、大腸がんや認知症、アトピー性皮膚炎など、約30種類の疾病リスクを網羅的に分析。
疾病リスクだけでなく、リスクを下げるための食品情報、酪酸菌や乳酸菌やエクオール産生菌の割合、 バランス評価など、きめ細やかなレポートで皆様の健康をサポートします。
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