薬と腸内細菌の関係①:抗生物質

抗生物質と腸内細菌の関係


細菌感染症の治療に有効な抗生物質は、これまでに多くの人の命を救ってきました。


その一方で、抗生物質は腸内細菌の生育も抑制するため、過剰に使用すると腸内細菌叢のバランスが乱れ、私たちの健康に悪影響を及ぼす場合もあります。


つまり、抗生物質には良い面と悪い面の両方があるのです。


目次[非表示]

  1. 1.種類によって異なる腸内細菌叢への影響
  2. 2.抗生物質による影響からの回復
  3. 3.抗生物質使用の際に知っておくべきこと


種類によって異なる腸内細菌叢への影響


抗生物質とひと口にいっても、実際にはさまざまな種類があります。


種類によって作用機序や標的となる細菌、薬物動態(体の中での薬の動き)などは異なり、腸内細菌叢に与える影響も変わります。


そこで、抗生物質のいくつかの種類について、腸内細菌叢に及ぼす影響をご説明します。



■クリンダマイシン(リンコマイシン系抗生物質)


感染症治療で一般的に使用される抗生物質のひとつに、クリンダマイシンがあります。


このクリンダマイシンは、投与後に胆汁中に排泄され、結腸内腔で高濃度になる傾向があり、標的ではない腸内細菌にも作用してしまいます。


そうすると腸内細菌叢のバランスが乱れ、Clostridioides difficile(クロストリジオイデス・ディフィシル)の腸内での過剰増殖(C. difficile感染症:抗菌薬関連下痢症のひとつとして発症することの多い感染症)につながる恐れがあると知られています。



■マクロライド系抗生物質


マクロライド系抗生物質については、フィンランドで実施された2歳から7歳の小児を対象とした研究において、腸内細菌叢の長期にわたる変化との関連性が観察されました。


その研究によると、マクロライド系抗生物質の使用により、腸内細菌叢においてActinobacteria(アクチノバクテリア)門の細菌が減少し、Bacteroidetes(バクテロイデーテス)門Proteobacteria(プロテオバクテリア)門*の細菌が増加する傾向があったそうです。


また、幼少期のマクロライド系抗生物質の使用が喘息のリスクの増加と関連していることや、子どもの太りすぎにつながることも示唆されました。


さらに同研究では、作用機序の異なるペニシリン系抗生物質(細菌の細胞壁合成を阻害)と比較した場合、マクロライド系抗生物質(細菌のタンパク質合成を阻害)のほうが腸内細菌叢に影響を与えやすいことも報告されています。


*:最新の分類ではそれぞれ、Actinomycetota(アクチノマイセトータ)門、Bacteroidota(バクテロイドータ)門、Pseudomonadota(シュードモナドータ)門に変更されています。



■リファキシミン(リファマイシン系抗生物質)


抗生物質の多くは腸内細菌叢に影響を及ぼしますが、使用方法によっては必ずしも悪影響となるわけではないようです。


例えば、過敏性腸症候群(IBS)では腸内細菌叢の乱れが病気の一因とされていますが、難吸収性の抗生物質であるリファキシミンの経口投与は、その治療法として有用であるとの報告があります。


リファキシミンはClostridium(クロストリジウム)属のような潜在的に有害な細菌を抑えるとともに、IBSでは減少する有益な酪酸産生菌Faecalibacterium prausnitzii(フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ)の存在量を増加させるなど、乱れた腸内細菌叢を好ましい状態へ変えることができるとのことです。


抗生物質による影響からの回復


抗生物質の使用により変化した腸内細菌叢は、多くの場合、その使用後2~4週間以内にもとの状態に戻ると考えられています。


しかしながら、抗生物質の種類や投与量、投与方法などによって、その期間は変わってきます。


もとの状態に戻るまでの期間が長い例を挙げると、先ほど紹介したクリンダマイシンでは1~12か月かかったことが報告されています。


抗生物質使用の際に知っておくべきこと


抗生物質は細菌感染症の治療に効果的な薬である反面、その過剰使用は腸内細菌叢のバランスを乱し、私たちの健康に有害な結果をもたらすこともあります。


抗生物質は諸刃の剣であり、適切な使用が望まれます。


ここでは、抗生物質の過剰使用による腸内細菌叢への影響をご紹介しましたが、病気の治療には処方に基づく薬の使用が大切です。


自己判断で薬の量を減らしたり、薬の使用をやめたりすることはせず、薬について気になる場合は、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。


参考文献
Ianiro, G. et al. Gut 65, 1906–1915 (2016).
Yang, L. et al. AMB Expr 11, 116 (2021).
Korpela, K. et al. Nat Commun 7, 10410 (2016).
Soldi, S. et al. CEG 8, 309–325 (2015).
Rashid, M.-U. et al. Clinical Infectious Diseases 60, S77–S84 (2015).




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