薬と腸内細菌の関係③:漢方薬などの薬効

漢方薬などの薬効と腸内細菌の関係


病気の治療では、薬を服用することがよくあります。


口から飲み込まれた薬は食べ物と同じ経路をたどり、やがて薬の成分は腸まで到達し、腸内細菌叢と遭遇することになります。


このとき、薬の種類によっては特定の腸内細菌の影響を受けて、その有効性や安全性が変化することがあるようです。


また、腸内細菌叢の構成は人それぞれ異なるため、一部の薬では人によって効果が異なるということが起こります。


つまり、薬効(薬の有効性)は腸内細菌叢によって左右されることがあるといえます。


今回のコラムでは、薬効と腸内細菌叢について、大きく漢方薬と西洋薬に分けてご紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.漢方薬と腸内細菌
  2. 2.西洋薬と腸内細菌
  3. 3.薬効には個人差がある


漢方薬と腸内細菌


漢方薬は複数の生薬から構成される多成分系の薬剤です。


生薬には多くの生物活性成分が含まれており、西洋薬の大半が合成された単一成分の化学物質であるのとは対照的です。


その活性成分のほとんどは配糖体として存在します。


分子構造内に糖鎖を有する配糖体は、ヒトの消化酵素ではほとんど分解できず、そのままでは腸管から吸収されにくいことが知られています。


つまり、漢方薬に含まれる活性成分の多くが、そのままでは効果を発揮しないのです。


ここで重要な働きをするのが腸内細菌。


多くの腸内細菌は糖鎖を切断する酵素を有しており、配糖体を代謝することが可能です。


糖鎖がとれて配糖体ではなくなった成分は、体内への吸収率が増加し、薬効につながります。


すなわち、腸内細菌は漢方薬の有効性に大きく関わっているのです。


同じ漢方薬でも人によって効果が異なることや、同じ人でも効くときと効かないときがあることが知られていますが、これは配糖体を代謝する腸内細菌が腸内に存在するかどうかが関係している可能性があります。


●腸内細菌により活性化される漢方薬成分


漢方薬には、多種類の生物活性成分が含まれており、それらが腸内細菌により複雑に代謝されます。


そのため詳細な解析は難しく、まだまだ未解明な部分が多いのですが、これまでに明らかとなっていることをご紹介します。


・茵ちん蒿湯(インチンコウトウ)

肝臓や胆のうの病気に伴う黄疸の改善などに用いられる漢方薬。茵ちん蒿(インチンコウ)、山梔子(サンシシ)、大黄(ダイオウ)が配合されています。

このうち、山梔子に含まれる配糖体ゲニポシドが一部の腸内細菌が産生するβ-グルコシダーゼ(グルコースとのグリコシド結合を分解する酵素)によってゲニピンに変換され、そのゲニピンが肝保護作用に関わっているとされています。


・甘草(カンゾウ)

成分のひとつである配糖体グリチルリチンは、一部の腸内細菌が産生するβ-グルクロニダーゼ(グルクロン酸とのグルクロニド結合を分解する酵素)によってグリチルレチン酸に変換されます。

グリチルレチン酸には抗炎症作用などがあることが知られています。


・大黄(ダイオウ)

成分のひとつである配糖体センノシドは、腸内細菌の代謝を受け、セニジンを経てレインアンスロンとなり、これが腸の蠕動運動を亢進させ、お通じを促します。

ただし、センノシドは多くの腸内細菌がもつグリコシダーゼ(グルコースを含めた糖全般とのグリコシド結合を分解する酵素の総称)では代謝されず、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)属の特定の菌株など、一部の腸内細菌によってのみ代謝されることが報告されています。

そのため、センノシドをセニジンに代謝できる腸内細菌の存在が、大黄の有効性に関係する可能性があるようです。


西洋薬と腸内細菌


腸内細菌によって薬効に影響があるのは漢方薬に限りません。


西洋薬のなかにも、腸内細菌の分解(加水分解など)や生体内変換(還元など)を介して薬の構造が変換され、有効性や安全性が変わってしまうものがあります。


以下に、具体的な例を挙げてご紹介します。


●腸内細菌によって有効性に影響がある薬


・レボドバ

パーキンソン病の治療に使用される内服薬で、脳内へ移行してドーパミンに変化し、脳内のドーパミン量を増やすことでパーキンソン病の症状を改善します。

しかし、脳内へ移行する前のレボドバをEnterococcus faecalis(エンテロコッカス・フェカーリス)やEggerthella lenta(エガセラ・レンタ)などの腸内細菌が代謝してしまうと、構造が変化し、期待される効果がなくなってしまいます。


・ジゴキシン

心不全などの治療に使用される薬であり、その有効性に個人差があることが知られています。

これまでにEggerthella lentaの特定の菌株が、ジゴキシンを不活性な還元物質(ジヒドロジゴキシン)に変換することが報告されています。

このようなジゴキシンの不活性化に関与する腸内細菌の存在の有無がジゴキシンの有効性に関係します。


・ロスバスタチン

血液中のコレステロール値を低下させる薬。

抗生物質を併用すると、腸内細菌叢によるロスバスタチンの生体内変換が阻害され、ロスバスタチンの有効性が低下する可能性があります。



●腸内細菌によって安全性に影響がある薬


・イリノテカン

抗がん剤の一種。

一部の患者で副作用として下痢を引き起こすことが知られていますが、これには腸内細菌由来の酵素が関係しています。

イリノテカンは体内で不活性体へと代謝されたあと、腸管へ排泄されますが、このときに腸内細菌由来の酵素(β-グルクロニダーゼ)によって再び活性体に変換され、副作用の発現につながります。


薬効には個人差がある


腸内細菌叢を構成する細菌の種類や割合は個人によって異なるため、薬の成分を分解したり、薬の構造を変換したりする腸内細菌が存在するかどうかは、人によって異なります。


そのため、同じ薬による治療を行っても、治療効果には個人差が生じることになります。


薬の恩恵を受けることができるかどうかの分岐点は、腸内細菌叢にあるといってもいいでしょう。


今後、薬と腸内細菌叢の関係についてさらに理解が深まれば、治療を必要とする人の腸内細菌叢を調べて、その状態に合わせて最適な薬が処方される――、そんな未来が来るかもしれません。


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引用文献
西山光恵. ファルマシア 58, 553–557 (2022).
内藤裕二. ファルマシア 58, 537–541 (2022).
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今理紗子 et al. ファルマシア 58, 558–562 (2022).



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