出産方法が赤ちゃんの腸内細菌叢に影響!?腸内細菌の母子伝播とは - 母子の腸内細菌叢③出産【前編】

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本コラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」として、妊娠・出産・授乳に至るまでの、母子の腸内細菌叢(腸内フローラ)についてご紹介します。
 
シリーズ3回目にあたる今回のコラムでは、出産が子の腸内細菌叢に与える影響について、特に、経膣分娩と帝王切開の違いに着目して説明します。


目次[非表示]

  1. 1.新生児の腸内細菌叢はいつから形成されるのか
  2. 2.出産方法は腸内細菌叢形成に影響を及ぼす要因の一つ
  3. 3.経腟分娩と子の腸内細菌叢
  4. 4.帝王切開と子の腸内細菌叢
  5. 5.出産時の抗生物質の使用が子の腸内細菌叢形成に与える影響
  6. 6.帝王切開の影響はいつまでつづく?
  7. 7.参考文献


新生児の腸内細菌叢はいつから形成されるのか


子の腸内細菌叢形成は、出産がそのスタートだと考えられています。
 
妊娠中の胎児については、無菌状態であるという意見とそうではないという意見がありますが、健康な妊娠では胎児の腸内細菌叢の形成は起こらないという見解が現在では主流となっています1)


出産方法は腸内細菌叢形成に影響を及ぼす要因の一つ


出産を機に、子は様々な細菌に初めて暴露されます。
 
子が初めて出会う細菌の種類は、経腟分娩と帝王切開のどちらで産まれるかによって異なるため、出産方法は子の腸内細菌叢の形成にとって重要な要因であると認識されています2)


経腟分娩と子の腸内細菌叢


経腟分娩の場合、子は出産時に母親の膣内細菌や腸内細菌、皮膚細菌に暴露されます。
 
これらの細菌が子の腸内に取り込まれるため、子の最初の便には多様な細菌が存在します。
 
ただし、それらの細菌の多くは一過性のものです。
 
細菌は種類ごとに固有の生息条件があり、その条件にあった体の部位以外には定着することはできません。
 
そのため、最初の数日を過ぎると特定の嫌気性細菌(腸内の酸素が存在しない環境を好む細菌)が増殖する一方、他の細菌は減少して一時的に多様性の低下が起こります。
 
具体的には生後間もない子の腸内では、一般的にStaphylococcus属(スタフィロコッカス属)やLactobacillus属(ラクトバシラス属)などの好気性細菌(酸素がある環境で生育可能な細菌)が優勢となります。
 
しかし、これらは一過性にみられる細菌であり、新生児の腸内に定着できるのは、主に母親由来のBifidobacterium属(ビフィドバクテリウム属)やBacteroides属(バクテロイデス属)などの嫌気性の腸内細菌です。
 
これらの腸内細菌は母乳に含まれる糖類を代謝して酢酸などを産生し、有害菌の増殖抑制などに寄与します3)4)
 
時間の経過とともに、Bifidobacterium属やBacteroides属は子の腸内で次第に優勢となり、腸内細菌叢の構成は安定していきます。
 
このように母親から子に腸内細菌が受け継がれることを腸内細菌の「母子伝播」といいます5)


帝王切開と子の腸内細菌叢


帝王切開の場合、子は母親由来の腸内細菌と接触する機会がなくなり、腸内細菌の母子伝播は起こりません。
 
これは、帝王切開で産まれた子の腸内細菌叢においてBifidobacterium属の相対存在量が低く、Bacteroides属がほとんどみられない点に現れているといえるでしょう。
 
この特徴は、いくつかの大規模コホート研究(600〜1,000人の子を対象)を含め、子の腸内細菌叢に対する帝王切開の影響を調査した研究の多くで観察されています1)
 
一般的に、帝王切開で産まれた子の初期の腸内細菌叢は、皮膚の細菌叢と類似しており、Staphylococcus属やPropionibacterium属(プロピオニバクテリウム属)などの細菌が多く検出されます。
 
また、Clostridium属(クロストリジウム属)やEnterococcus属(エンテロコッカス属)などに属する病原性細菌の相対存在量が多い場合があります。
 
これらは院内に一般的に存在する細菌でもあり、院内環境から子の腸内に取り込まれると考えられています6)
 
帝王切開の中には、破水後に帝王切開するケースもあります。
 
この場合は細菌との接触という観点からは、選択的帝王切開よりも経膣分娩に近いという仮説もあるようです。
 
しかし、この仮説はあまり支持されていません。
 
母親と子が陣痛過程にさらされても、腸内細菌の母子伝播はほぼ起こらないと考えられています1)


出産時の抗生物質の使用が子の腸内細菌叢形成に与える影響


 
帝王切開においては、母体への抗生物質投与は分娩に不可欠なものです。
 
一般的に、成人の抗生物質使用は腸内細菌叢に影響があることが知られていますが、帝王切開の場合、子にみられる腸内細菌叢の特徴は、抗生物質による影響ではないと考えられています。
 
2019年に帝王切開で出産する母親において、皮膚切開前もしくは臍帯切断直後に投与した抗生物質の影響を比較した研究が報告されました。
 
この研究では、抗生物質投与のタイミングによる子の腸内細菌叢の構成への影響は認められませんでした7)
 
このことから、帝王切開で産まれた子にみられる腸内細菌叢の特徴は、抗生物質の使用ではなく、母体の産道に存在する細菌との接触がないことが原因であるとされています。
 
一方、経腟分娩における抗生物質の使用は子の腸内細菌叢形成に影響があるようです。
 
経腟分娩であっても、分娩中に抗生物質が使用された場合は、腸内細菌の母子伝播が遮断される可能性があります。
 
特にBifidobacterium属の伝播が強い影響を受けることが報告されています1)


帝王切開の影響はいつまでつづく?


ここまで、子の腸内細菌は出産方法の影響を受けることをご紹介してきました。
 
では、帝王切開で産まれた子に特徴的な腸内細菌叢はいつまで続くのか?
 
また、子の腸内細菌叢を整える方法にはどのようなものがあるのか?
 
これらの疑問については、次回ご紹介する本コラムの後編にて詳しくご説明いたします。


参考文献

1)Korpela, K. Impact of Delivery Mode on Infant Gut Microbiota. Ann. Nutr. Metab. 77, 11–19 (2021).
2)Milani, C. et al. The First Microbial Colonizers of the Human Gut: Composition, Activities, and Health Implications of the Infant Gut Microbiota. Microbiol. Mol. Biol. Rev. 81, 10.1128/mmbr.00036-17 (2017).
3)Fukuda, S. et al. Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate. Nature 469, 543–547 (2011).
4)Marcobal, A. & Sonnenburg, J. L. Human milk oligosaccharide consumption by intestinal microbiota. Clin. Microbiol. Infect. 18, 12–15 (2012).
5)牧野 博 et al. 新生児・乳児期の腸内細菌叢とその形成因子. 腸内細菌学雑誌 33, 15–25 (2018).
6)Shao, Y. et al. Stunted microbiota and opportunistic pathogen colonization in caesarean-section birth. Nature 574, 117–121 (2019).
7)Kamal, S. S. et al. Impact of Early Exposure to Cefuroxime on the Composition of the Gut Microbiota in Infants Following Cesarean Delivery. J. Pediatr. 210, 99-105.e2 (2019).

 



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