アルコール摂取による下痢の原因は?腸内環境が大変なことに!
お酒を飲みすぎた翌日、「下痢」に困ったことはありませんか。実は、このような悩みを抱えている方は多いようです。
今回のコラムでは、アルコール摂取によって下痢が起こる原因と対策、さらに、アルコールの過剰摂取が腸内細菌叢(腸内フローラ)に与える影響、さらに疾病へのリスクについてご紹介いたします。
目次[非表示]
- 1.アルコール摂取で下痢になる?その原因
- 1.1.飲み過ぎ・食べ過ぎの場合
- 1.2.慢性膵炎の場合
- 2.アルコールで下痢にならないようにするために
- 2.1.アルコールで下痢にならない方法
- 3.アルコール摂取による腸内フローラへの影響
- 3.1.アルコール性肝疾患の発症と進行に関与
- 3.2.酪酸産生菌の減少
- 4.まとめ
- 5.用語説明
- 6.参考文献
アルコール摂取で下痢になる?その原因
お酒を飲んだ翌日に下痢になる主な原因は、飲み過ぎ・食べ過ぎです。
その他に、慢性膵炎による下痢の場合があります。
飲み過ぎ・食べ過ぎの場合
飲み過ぎや食べ過ぎによって下痢を起こす場合の腸内の状態を説明します。
摂取したアルコールの約20%は胃でゆっくりと吸収され、残りの約80%は小腸で速やかに吸収されますが、アルコールを摂り過ぎると小腸粘膜に局在する消化酵素の活性が低下するため、食物の消化不良が起こります。
また、腸管では、アルコール摂取によって水分やナトリウムの吸収が低下します。
お酒自体に含まれる糖質、おつまみとして摂る高塩分・高脂質の食べ物は浸透圧が高く水分の吸収率が高いため、腸管から体内への水分吸収が妨げられてしまうのです。
その結果、大腸内は通常より水分量が多い状態となり、そこに小腸から未消化物が大量に流れ込んでくるため、これらを早く排泄しようとして蠕動運動が活発となり「下痢」が起こります1)。
慢性膵炎の場合
慢性膵炎による下痢の場合は、脂肪便(便が水面に油のように広がる)となるのが特徴です。
膵臓は消化酵素を含む膵液を分泌しますが、慢性膵炎により肝臓の機能が低下すると消化酵素の分泌が不足し、脂肪の分解・吸収ができないことで脂肪便の下痢が起こります。
そして慢性膵炎の原因は、約70%が過度のアルコール摂取と言われています。
お心当たりのある場合は医師へ相談されることをお勧めします。
アルコールで下痢にならないようにするために
健康な成人の平均的なアルコール分解速度は、1時間に5~7gです。
ビール500mL(アルコール5%)に含まれる約20gのアルコールの分解には、約3~4時間かかる計算です。
(ただし、アルコール分解速度は、年齢や性別、体質、健康状態によって異なります)。
アルコールの分解には時間がかかること、たくさん飲むと胃腸に負担となることから、下痢にならないようにするためには、胃腸にできるだけ負担をかけないような飲み方を心掛ける必要があると言えます。
アルコールで下痢にならない方法
できるだけ胃腸に負担をかけないために、次のような飲み方を実践すると良いでしょう。
・食べてから飲む
・水などのチェイサーを飲む
・塩辛いものや揚げ物を控える
・食物繊維の多いものを一緒に食べる
・休肝日をつくる
アルコール摂取による腸内フローラへの影響
アルコールの摂り過ぎによって下痢の症状が生じることがありますが、腸内フローラには影響があるのでしょうか?
マウスやラット、ヒトの研究から、慢性的なアルコールの過剰摂取が小腸での細菌の過剰増殖や腸内細菌叢のディスバイオシスを引き起こすこと、さらに、アルコール関連疾患の発症とディスバイオシスに関連性があることが示されています2)–8)。
アルコール性肝疾患の発症と進行に関与
マウスの胃内にアルコールを持続的に注入させた研究では、小腸細菌の過剰増殖と盲腸(大腸のはじまり)でディスバイオシスが生じたことが報告されています5)。
この研究では、アルコール投与により抗菌ペプチドのReg3bとReg3g※aの遺伝子およびタンパク質の小腸での発現が抑制されていたことから、これらが慢性的なアルコール摂取による腸内細菌叢の量的および質的変化に寄与している可能性が示唆されています。
ヒトでの慢性的なアルコール摂取も、小腸細菌の過剰増殖やディスバイオシスを引き起こすことが報告されています。
慢性アルコール依存症患者では、対照者に比べて、小腸吸引液中(内視鏡を用いて小腸から採取される液体)の好気性細菌と嫌気性細菌が共に有意に多かったことが報告されています6)。
また、アルコール過剰摂取者やアルコール依存症患者、アルコール性肝硬変患者では、Bacteroidetes門(バクテロイデス門)の細菌が少なく、Proteobacteria門(プロテオバクテリア門※bやFusobacteria門(フソバクテリウム門)の細菌が多いことが報告されています2)–4),7)。
Proteobacteria門の細菌は、リポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)からなる外膜をもつグラム陰性菌です。
LPSはエンドトキシン(内毒素)といわれ、体内に侵入すると炎症反応を引き起こします。
Fusobacteria門もグラム陰性菌であり、Proteobacteria門の細菌と同様にエンドトキシンによる炎症反応を引き超す可能性があります。
そして、アルコールが分解されて生じるアセトアルデヒドは、腸管バリアを形成するタイトジャンクション※cを破壊することで、エンドトキシンの腸管透過性を高める可能性があります8)。
これらのことから、アルコール摂取によるこれらの細菌の増殖と腸管透過性の増加は、血中エンドトキシン濃度の上昇につながる可能性があります。
腸由来のエンドトキシンがアルコール性肝疾患の発症と進行に関与していることも示唆されています8)。
酪酸産生菌の減少
アルコール過剰摂取者では酪酸産生菌とされるFaecalibacterium属(フィーカリバクテリウム)が少ないことや、便中の酪酸濃度が低いことが示されています3)。
酪酸は、腸粘膜のバリア機能の維持や免疫系の調整など、健康に保つさまざまな働きをする短鎖脂肪酸のひとつです。
腸内の酪酸濃度が低下すると、ビフィズス菌や乳酸菌の数が減り、腸内フローラのバランスが崩れてディスバイオシスが生じやすくなります。
さらに、腸粘膜から体内への有害な菌や物質が侵入し、免疫機能の低下が起こる可能性があります。
※コラム「腸内細菌の代謝産物「酪酸」の働き~酪酸菌とは?~」「酪酸菌を増やすには?増えすぎると危険?!」参照
ただし、これらの研究は、慢性的にアルコールを過剰摂取した人の腸内細菌叢の特徴を示したもので、摂取したアルコールが腸内細菌叢にどのように影響を与えるかはよく分かっていません。
しかし、「下痢」を起こすような飲み方は、胃腸への負担となり腸内環境を悪化させるため、このような状態が繰り返されている場合は、腸内細菌叢のディスバイオシスが生じている可能があります。
まとめ
飲酒後の下痢は、飲み過ぎや食べ過ぎによる胃腸への負担が主な原因です。
慢性的なアルコールの過剰摂取は、腸内細菌叢のディスバイオシスを引き起こし、アルコール性肝疾患をはじめ様々な疾病の発症につながる可能性があります。
健康に楽しくお酒を飲むために、腸内環境を意識してみるとよいでしょう。
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用語説明
※a Reg3b(regenerating islet-derived protein 3b), Reg3g:腸粘膜で生成される抗菌ペプチドの1種。腸内細菌や病原性細菌の増殖を抑制している。
※b Proteobacteria門:現在の分類ではPseudomonadota門(シュードモナドータ門)
※c タイトジャンクション:上皮細胞間の隙間を埋める構造で、病原性細菌やエンドトキシンの侵入を防ぐ役割をしている。腸管のバリア機能のひとつ。
参考文献
1)森朱夏. アルコール関連問題予防研究会 (2009).
2)Meroni, M. et al. International Journal of Molecular Sciences 20, 4568 (2019).
3)Bjørkhaug, S. T. et al. Gut Microbes 10, 663–675 (2019).
4)Engen, P. A. et al. Alcohol Res 37, 223–236 (2015).
5)Yan, A. W. et al. Hepatology 53, 96–105 (2011).
6)Bode, J. C. et al. Hepatogastroenterology 31, 30–34 (1984).
7)Tsuruya, A. et al. Sci Rep 6, 27923 (2016).
8)Purohit, V. et al. Alcohol 42, 349–361 (2008).
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