歯周病菌が腸を乱す——レッドコンプレックスを代表とする口腔内細菌と腸内フローラの意外なつながり

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30歳以上の成人の約80%が罹患しているとされる歯周病。

しかし、その影響が口の中だけにとどまらないことは、あまり知られていません。

実は、口の中の歯周病菌が唾液とともに腸まで運ばれ、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを乱すことで、さまざまな全身疾患のリスクを高める可能性があることがわかっています。

今回のコラムでは、特に病原性の高い細菌「レッドコンプレックス」を紹介するとともに、歯周病菌が腸内環境に影響を与えるメカニズムと、今日からできる予防・改善策について解説します。

目次[非表示]

  1. 1.歯周病を悪化させる3種の細菌「レッドコンプレックス」とは
  2. 2.歯周病菌は腸にも影響する?口腔と腸内細菌叢の関係
  3. 3.胃酸があるのになぜ腸まで届く?歯周病菌が生き延びるメカニズム
  4. 4.歯周病菌が腸に届くと起こる疾病のリスク
  5. 5.歯周病の治療・予防で腸内環境も改善できる?
    1. 5.1.歯周病の予防
    2. 5.2.腸内環境の改善
  6. 6.まとめ
  7. 7.参考文献

歯周病を悪化させる3種の細菌「レッドコンプレックス」とは

レッドコンプレックスとは、歯周病の病原菌の中でも特に病原性の高い細菌の総称です。

1998年にSocranskyらは歯周病菌を病原性ごとに6つのグループ(レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、パープル、ブルー)に分け、その中で最も病原性が高いグループをレッドコンプレックスとしました1

具体的には、Tannerella forsythia(タンネレラ・フォーサイシア、Tf菌)、Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス、Pg菌)、Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコーラ、Td菌)の3種がレッドコンプレックスの細菌です。

レッドコンプレックスは、他の歯周病菌グループ、特にオレンジコンプレックスの細菌が増殖した後に増殖します2

レッドコンプレックスの3種の細菌は互いに栄養を補給しあう共生関係にあり、これらが増殖すると歯周病が進行して歯周組織の破壊を加速させます。

歯周病菌の6つのグループ

歯周病菌は腸にも影響する?口腔と腸内細菌叢の関係

歯周病が進行すると、歯周病菌が体内に侵入し、全身の健康に影響を及ぼすことが知られています。

口腔内細菌、特に歯周病菌は、出血した歯茎の血管から侵入することで全身に運ばれ、全身疾患(糖尿病、動脈硬化、早産、敗血症など)を引き起こすと言われていますが、近年、唾液とともに飲み込まれた口腔内細菌が腸内に到達することで、全身疾患のリスクを高める可能性があることが指摘されています3

腸まで到達した口腔内細菌は、腸内細菌叢(腸内フローラ)を乱すことで腸管バリア機能の低下や免疫力の低下を引き起こします。

また、腸管バリア機能が低下することで、病原菌が血中へ侵入します。

そのため、様々な全身疾患(大腸がん、炎症性腸疾患、脳卒中など)のリスクが増加することが報告されています。

胃酸があるのになぜ腸まで届く?歯周病菌が生き延びるメカニズム

唾液とともに飲み込まれた細菌の多くは胃酸で死滅しますが、一部は腸まで到達します3–6

口の中で口腔内細菌が増殖すると、歯周ポケットや歯の裏側など歯ブラシが届きにくい場所にバイオフィルムを形成します。

バイオフィルムは細菌が作り出すネバネバの膜のことで、強固な構造をもっており胃酸や抗菌剤にも耐性を示します。

歯周病の方のバイオフィルム内では、歯周病菌が爆発的に増殖しています。

そのため、唾液と一緒に大量に飲み込まれたバイオフィルム内の歯周病菌は、胃酸でも死滅せずに腸まで到達すると考えられています。

また、胃酸抑制薬の長期服用、ピロリ菌感染、ストレスなどの要因で胃酸分泌が低下します3

さらに、水を飲むと胃酸は薄まります。

その結果、胃を通過して腸まで届いてしまう菌もあります。

歯周病菌が腸に届くと起こる疾病のリスク

腸に到達した口腔内細菌は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、大腸がん、肥満、糖尿病、動脈硬化症、関節リウマチ、代謝異常関連脂肪性肝疾患【MASLD】(旧:非アルコール性脂肪性肝疾患【NAFLD】)などの病気を悪化あるいは誘発させる可能性が報告されています3,7

レッドコンプレックスの1種であるP. gingivalisを経口投与させたマウスでは、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)が生じ、インスリン抵抗性および全身性炎症を引き起こしたとの研究報告があります4

歯周病の治療・予防で腸内環境も改善できる?

歯周病またはその疑いのある方は、歯科を受診して歯周病の検査と適切な治療を受けましょう。

歯周病の治療をすることで、歯周病菌を減らして口腔内細菌叢を健康な状態に近づけることが可能です。

歯周病の予防

日本人の歯周病罹患率は非常に高く、30歳以上の成人の約80%が歯周病もしくはその予備軍と言われています8)。

歯周病の予防には、日々のセルフケアと歯科医院での定期的な専門ケアが大切です。

基本は、毎日の丁寧な歯磨き(食後と就寝前)、歯間ブラシ・デンタルフロスによる歯垢除去、舌磨きです。

舌磨きは、歯周病菌の温床である舌苔を除去することで歯周病の進行を抑える効果、口臭予防の効果があるとされています。

ただし、専用の舌ブラシなど柔らかいブラシを使用し、舌を傷つけないよう優しく行いましょう。

歯垢は食後の歯磨きで取り除くことができますが、バイオフィルムの状態になると歯科医院でのクリーニングでないと取り除くのが難しくなります。

そのため、歯科医院での専門ケアを受けましょう。

腸内環境の改善

歯周病菌によって腸内細菌叢が乱れてしまった場合、歯周病の治療だけではなく、食生活や生活習慣を見直し、腸内環境を改善することも大切です。

歯周病の治療後、腸内細菌叢の改善には時間がかかる可能性があります。

歯周病患者の治療前後での腸内細菌叢を調べた研究で、治療3ヶ月後の腸内細菌叢が健康者と同様のプロファイルになったとの報告がありますが9、別の研究では、治療13ヶ月後の患者では腸内細菌叢に変化がみられなかった(口腔内細菌叢のディスバイオシスは改善された)との研究報告もあります10

このことから、歯周病菌による腸内細菌叢のディスバイオシスの改善には、歯周病の治療に加えて腸内環境を整える取り組みも必要です。

まとめ

口腔内細菌は、全てが悪い菌ではありませんが、歯周病菌などの病原性細菌が増殖すると、口腔内細菌叢のバランスが崩れます。

そして、これらの菌が腸まで到達すると、腸内細菌叢のディスバイオシスを引き起こし、全身疾病のリスクを高める可能性があります。

疾病リスクを高めないためには、日々の口腔ケアや定期的な歯科検診だけでなく、食生活や生活習慣を見直して腸内環境を整えることも大切です。

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是非ご活用ください。

参考文献

1)Socransky, S. S. et al. J Clin Periodontol 25, 134–144 (1998).

2)Mohanty R. et al. Journal of Family Medicine and Primary Care 8, 3480 (2019).

3)Kitamoto, S. et al. J Dent Res 99, 1021–1029 (2020).

4)Arimatsu, K. et al. Sci Rep 4, 4828 (2014).

5)Walker, M. et al. Nitric Oxide 73, 81–88 (2018).

6)Schmidt, T. S. et al. Elife 8, e42693 (2019).

7)Olsen, I. et al. Journal of Oral Microbiology 11, 1586422 (2019).

8)厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html

9)Baima, G. et al. J Dent Res 103, 359–368 (2024).

10)Miyauchi, E. et al. Journal of Oral Microbiology 17, 2499284 (2025).


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