腸内細菌叢にも“性差”がある~腸内細菌の多様性にも関連~
男性と女性のあいだにある差異を“性差”と呼びます。
実は、私たちの腸に存在する腸内細菌の構成、すなわち腸内細菌叢(腸内フローラ)にも、性差があります。
今回は、最新の研究で明らかになった腸内細菌叢の性差とはどのようなものなのか、そしてなぜ性差に注目することが重要なのかをお話しします。
腸内細菌叢の性差は年齢で異なる
当社では、疾病に罹患していない日本人約6,500人の腸内細菌叢データを、性別・年代ごと(20代から70代まで)に分け、腸内細菌叢における性差を詳細に調査しました。
その結果、日本人の腸内細菌叢には性差があり、男性ではFusobacterium(フソバクテリウム)、Megamonas(メガモナス)、Megasphaera(メガスファエラ)、Prevotella(プレボテラ)、Sutterella(ステレラ)などに属する腸内細菌が多く、女性ではAlistipes(アリスティペス)、Bacteroides(バクテロイデス)、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)、Odoribacter(オドリバクター)、Ruthenibacterium(ルテニバクテリウム)などに属する腸内細菌が多い、という傾向があることがわかりました。
ただし、こうした腸内細菌叢の性差は、30代以降、年代が高くなるにつれて小さくなる傾向があることも示唆されました。
50代以下では女性のほうが男性よりも腸内細菌叢の多様性が高い傾向がありましたが、60代以上ではその差は顕著ではありませんでした。
性差が年代で異なる要因は?
腸内細菌叢の性差の程度が年代で異なる要因として、加齢によるさまざまな変化が腸内細菌叢に大きな影響を与えていることが考えられます。
日本人の腸内細菌叢の多様性は、離乳後に大幅に増加し、20代までは増加を続けます。
その間、思春期の性ホルモンの影響により、20代までの腸内細菌叢の多様性の増え方に性別で差異が生じ、その結果として腸内細菌叢の性差が形成されている可能性があります。
その後、50代頃までは、加齢やライフスタイルの変化などの影響を受けつつも、腸内細菌叢の性差は維持されると推測できます。
そしてさらに年齢を重ねると、女性の場合は閉経に関連して女性ホルモンとして知られるエストロゲンの分泌の低下が起こり、それが腸内細菌叢に影響を与えていることが考えられます。
また、高齢者では腸の生理機能が変化することから腸内細菌叢が影響を受けると思われます。
加齢による生理的および身体的特徴の変化が腸内細菌叢の性差を小さくする要因となっているのかもしれません。
性差の視点をもつことの重要性
近年、腸内細菌叢は疾病の発症や進行に関係していることが明らかになってきています。
腸内細菌叢に性差があるとすれば、疾病に関連する腸内細菌も男女間で異なる可能性があります。
そこで当社では、日本人の大規模な腸内細菌叢データを用いて、12の疾病(潰瘍性大腸炎、2型糖尿病、胃炎、逆流性食道炎、腎臓病、肝臓病、不整脈、狭心症、緑内障、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎)と関連する可能性のある腸内細菌を男女別・年代別に調査しました。
その結果、各疾病と関連する可能性のある腸内細菌の多くは、男女間および年代間で異なりました。
これは、腸内細菌叢に関する研究、疾病の予防・治療法、腸内細菌叢の検査サービスなどにおいて、性差の視点が欠落していると、人によっては十分な効果が得られないなどの不利益が生じるかもしれないということを示唆しています。
そのため、腸内細菌叢に関連する研究や技術革新に取り組む際には、性差を考慮した「ジェンダード・イノベーション」の視点が重要となります。
当社の取り組みについて
以上のことをふまえ、当社で提供している腸内細菌叢の検査・分析サービス『SYMGRAM®』、『健腸ナビ®』では、腸内細菌叢の性差を考慮した男女別の分析を行っております。
腸内細菌叢の性差に関する研究内容の詳細に関しては、当社の論文またはプレスリリースをご参照ください。
参考文献
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Bischoff, S. C. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 19, 26–30 (2016).
Salles, N. Dig Dis 25, 112–117 (2007).
当社が提供している腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」(医療機関向け)および「健腸ナビ」(一般個人向け)では、大腸がんや認知症、アトピー性皮膚炎など、約30種類の疾病リスクを網羅的に分析。
疾病リスクだけでなく、リスクを下げるための食品情報、酪酸菌や乳酸菌やエクオール産生菌の割合、 バランス評価など、きめ細やかなレポートで皆様の健康をサポートします。
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