頭痛予防の鍵は腸内にも

頭痛予防の鍵は腸内にも


体調不良時の“痛み”のなかでも、きっと多くの人が経験したことのある「頭痛」。


梅雨の時期は、特に「頭が痛い」と感じることが多いのではないでしょうか。


頭痛は、脳炎や脳梗塞といった病気によるものと、明らかな病気ではないにもかかわらず発生するもの(一次性頭痛)に大きく分けられますが、一次性頭痛の代表的なものに「片頭痛」があります。


片頭痛とは、頭の片側または両側が、脈を打つようにズキズキと痛むもの。


さまざまな原因が考えられていますが、まだ根本的な治療法がないため、薬を飲んだり、マッサージしたりするなどの方法で痛みをやわらげることが多いようです。


実はこの片頭痛も、腸内細菌叢(腸内フローラ)との関係について研究が進められています。


目次[非表示]

  1. 1.片頭痛のメカニズムと腸内細菌叢との関係
  2. 2.片頭痛と腸内細菌に関する研究
  3. 3.腸内細菌叢から取り組める頭痛対策とは?


片頭痛のメカニズムと腸内細菌叢との関係


片頭痛の主な発生メカニズムには、なんらかの原因による神経の刺激や炎症、脳の血管拡張が関わっていると考えられており、これらの反応にはセロトニンなどの神経伝達物質が関与していることが知られています。


一時的なセロトニンの大量放出に続くセロトニンの不足が、片頭痛を引き起こす一因とも考えられていることから、現在使用されている主な片頭痛治療薬には、このセロトニンの働きを調節するタイプのものも多くあります。


セロトニンは、腸内細菌が産生するトリプトファンの代謝産物や、腸粘膜細胞から生成される5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を材料として生成されることから、脳でのセロトニン生成には腸内細菌叢が影響し、そのバランス異常は片頭痛につながる可能性があるのです。


また、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸、なかでも酪酸が片頭痛に関係しているとも考えられています。


酪酸は、腸粘膜の保護、修復、バリア機能の維持などに役立っています(コラム「腸内細菌の代謝産物「酪酸」の働き」参照)が、腸内細菌叢のバランス異常により酪酸産生菌(酪酸菌)が減少し、腸内の酪酸濃度が低下することでバリア機能が低下、それによって腸内の有害物質が血液に流れ込んで頭痛が引き起こされる可能性があります。

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実際に多くの研究でも、頭痛と消化器系の炎症性疾患との関連性は数多く報告されています。


つまり、酪酸産生菌をバランスよく保持し、腸のバリア機能を正常に保つことで、片頭痛を抑制できるかもしれないのです。


片頭痛と腸内細菌に関する研究


では、片頭痛罹患者の腸内細菌叢にはなにか特徴があるのでしょうか。


ウクライナにおける片頭痛罹患者112名に対して行われた研究では、腸内細菌叢の特徴と頭痛との関連性が調査され、腸内細菌Blautia coccoides(ブラウティア・コッコイデス)が少ないほど痛みが強いことが示されました。


また、中国の研究においては、片頭痛罹患者は健康者に比べ、炎症の悪化に関連する7菌種(Clostridium[クロストリジウム]属の菌種)が多く、酪酸を産生する2つの菌種(Faecalibacterium prausnitzii[フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ]およびMethanobrevibacter smithii[メタノブレヴィバクター・スミシー])が少ないことが示されています。


これらの研究からもわかるように、片頭痛罹患者には特徴的な腸内細菌叢があるようです。


腸内細菌叢から取り組める頭痛対策とは?


片頭痛罹患者においてプロバイオティクスの効果を評価した例をご紹介します。


片頭痛罹患者27名(頭痛の回数:平均7回/月)を対象とした研究では、混合プロバイオティクスサプリメント(Bifidobacterium[ビフィドバクテリウム]属、Lactobacillus[ラクトバシラス]属、Lactococcus[ラクトコッカス]属の菌種の混合)を12週間摂取した結果、約67%で摂取前と比べて頭痛の回数が減り、頭痛による生活の支障も軽減されたと報告されています。


同様のサプリメントを摂取した別の研究でも、サプリメント摂取群はプラセボ摂取群よりもひと月あたりの頭痛の回数が減り、痛みも軽減し、頭痛治療薬の服用頻度が約半分に減少したそうです。


また、マウスにBifidobacterium属(Bifidobacterium breve CCFM1025)を投与したところ、腸粘膜培養細胞において5-HTPの産生が促進されたという報告があります。


前述のように、5-HTPはセロトニンの材料であることから、このプロバイオティクスの摂取は脳でのセロトニンの生成に寄与すると考えられます。


このような研究からも、プロバイオティクスの摂取は片頭痛の症状の改善に役立つ可能性があります。


一方で、食物繊維の摂取量が多いほど頭痛の頻度が低くなる傾向にあることや、脂質を制限することで頭痛の頻度が低下し、痛みが軽減するなどの研究結果も示されています。


食物繊維の摂取によって腸内での酪酸の産生が促進され、脂質の多い食事ほど酪酸産生菌が減少することから、食物繊維が多く、脂質の少ない食事を意識することで、腸内から頭痛予防ができそうです。


当社で提供している腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」「健腸ナビ」では、腸内細菌叢から片頭痛・頭痛のリスクを分析し、リスクが中・高の場合はリスクを下げるための推奨食品をご案内しています。


また、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合を知ることもできます。


このようなサービスを活用して、自身の腸内細菌叢の状態を知り、普段の食事から片頭痛対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。


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