腸内細菌叢は体内時計にも関連―睡眠と腸内細菌叢―
睡眠時間を確保してしっかり眠るつもりなのに、いざベッドや布団に入ると眠れない・・・。
このような睡眠不足に関する問題を改善するためには、実は、腸内細菌叢を整えることが大切です。
本コラムでは、睡眠において大切な役割を担っている体内時計と腸内細菌叢(腸内フローラ)との関係をご紹介します。
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腸内細菌叢は体内時計(概日リズム)になくてはならない存在
体温やホルモン分泌など、私たちのからだの基本的な機能は、約24時間周期のリズムを有しています1)。
そのリズムのことを概日リズム(サーカディアンリズム)といい、体内時計として知られています。
この概日リズムは、睡眠と覚醒(目がさめている状態)のサイクルが正しく維持されるために重要なものです。
概日リズムは眠気をもたらして睡眠を促してくれるため、概日リズムに乱れが生じると、寝不足のような睡眠の質の低下、さらには不眠症などにつながってしまいます。
この概日リズムは、時計遺伝子(複数の転写因子による転写・翻訳から成るフィードバック機構)によって形成されています2)。
これまでに腸内細菌が存在しない無菌マウスでは、時計遺伝子の発現低下と概日リズムの減弱が観察されており3)、腸内細菌叢が時計遺伝子に関連していることが報告されています。
つまり、腸内細菌叢は宿主の概日リズムになくてはならない存在であり、睡眠に影響を及ぼす要因の一つなのです。
時計遺伝子と腸内細菌叢は相互に関係する
概日リズムを形成する時計遺伝子は胃腸や肝臓などにも存在しています。
腸においては時計遺伝子の影響を受けて、1日の中で腸内細菌叢の構成が変化(日内変動)することが分かっています4)。
例えばある報告では、腸内細菌叢を構成するParabacteroides属(パラバクテロイデス属)やBulleidia属(ブレイディア属)は日中に増加して夜間に減少すること、Lachnospira属(ラクノスピラ属)は日中に減少し夜間に増加することが観察されました5)。
一方で、腸内細菌叢の側からも時計遺伝子に影響を与えることが分かっています。
例えば、腸内細菌が産生する酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸は、腸の概日リズムの調節の一端を担っていることがこれまでの研究から示唆されています6)。
また、腸での脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸は、その一部が腸内細菌の代謝を受けて変換(脱抱合)されるものです。
このような脱抱合を受けた胆汁酸は、時計遺伝子の発現に関与していることが報告されています4)。
このように、腸内細菌叢と時計遺伝子は相互に関係し、宿主の概日リズムに影響を与えているのです。
規則正しい食事が腸内細菌叢の変動リズムを整える
これまでに、時計遺伝子を欠損させて腸内細菌叢の日内変動が起こらないようにしたマウスであっても、時間を定めて食事を摂らせると、腸内細菌叢の日内変動が再現されることが報告されています5)。
また別の研究では、マウスに高脂肪食を24時間自由に摂食させると、普通食を摂食させた場合に比べて腸内細菌叢の日内変動が起こりにくくなるのに対し、摂食時間に制限を設けて同様の食餌を与えると腸内細菌叢の日内変動が回復したことが観察されました7)。
これらは、腸内細菌叢の日内変動には、規則正しい食事が重要であることを示唆しています。
腸内細菌叢と時計遺伝子との関連を考慮すると、規則正しい食事は腸内細菌叢の日内変動のリズムを整えることにとどまらず、概日リズムを維持するためにも重要と考えられます。
腸から睡眠を整えるためには
ここまでのお話から、規則正しい食生活により腸内細菌叢の日内変動が整い、正常な概日リズムが作り出されると、最終的には良質な睡眠につながると考えられます。
より良い睡眠のためには、概日リズムに影響を与える短鎖脂肪酸の産生が必要であり、短鎖脂肪酸を産生する菌の餌となる食物繊維を摂取することが重要です。
食物繊維の摂取量が多いと深い睡眠の割合が増えることも報告されているため8)、積極的に摂取することをおすすめします。
食物繊維は、野菜(特に葉野菜)、果物(リンゴ、バナナ、オレンジなど)、穀物(オートミール、玄米など)などに多く含まれているため、腸活の参考にしてみるとよいでしょう。
今回は、腸内細菌叢を整えることで睡眠改善にアプローチできる可能性があることについてお伝えしました。
睡眠に悩みを抱えている方や食生活の乱れが気になる方、まずはご自身の腸内細菌叢の状態を調べてみてはいかがでしょうか。
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参考文献
1)e-ヘルスネット 情報提供 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-039.html.
2)梶谷直人. ファルマシア 59, 70–70 (2023).
3)Leone, V. et al. Cell Host Microbe 17, 681–689 (2015).
4)入江潤一郎 & 伊藤裕. 腸内細菌学雑誌 31, 143–150 (2017).
5)Thaiss, C. A. et al. Cell 159, 514–529 (2014).
6)Tahara, Y. et al. Sci. Rep. 8, 1395 (2018).
7)Zarrinpar, A. et al. Cell Metab. 20, 1006–1017 (2014).
8)Wilson, K. et al. J. Acad. Nutr. Diet. 122, 1182–1195 (2022).
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