女性不妊の原因には腸内細菌叢も関連している―不妊症と腸内細菌叢〈前編〉―
子供を望む多くの人が悩む不妊。
その原因は多岐にわたり、男性と女性のそれぞれに存在します。
意外かもしれませんが、近年の研究からは腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常(ディスバイオシス)がそれらに関連することが明らかとなってきました。
子宮内の菌を指す子宮内フローラという言葉もありますが、今回の記事では腸内フローラに着目していきます。
本コラムでは、まずは女性不妊と腸内細菌叢の関連性についてご紹介します。
男性の不妊と腸内細菌叢の関連についてはシリーズ後編でご紹介しますので、そちらも是非ご覧ください。
子宮内膜症には腸内細菌叢の異常が関係
不妊症の女性のうち、最大25~50%が子宮内膜症を患っていると推定されています1),2)。
子宮内膜症の発症には、炎症・免疫調節不全・ホルモン(エストロゲン)のアンバランスが関連しており、そして、それらの原因には腸内細菌叢の異常が挙げられます1)。
実際に、炎症や免疫調節不全には、腸内細菌叢の異常による腸上皮バリア機能の破壊が大きく関連していることがわかってきました。
(コラム「ディスバイオシスと疾病の関連性」参照)
また、エストロゲンのアンバランスには、腸内細菌による代謝が関連しています。
通常、未利用のエストロゲンは肝臓でグルクロン酸や硫酸との結合を受けて、胆汁や尿中に排泄されるものです。
しかし、Escherichia coli (エシェリキア・コリ、和名:大腸菌)、Bacteroides fragilis(バクテロイデス・フラジリス)、Streptococcus agalactiae(ストレプトコッカス・アガラクティエ)などの一部の腸内細菌が多く存在すると、それらが有する酵素(β-グルクロニダーゼ)によって、結合していたグルクロン酸が切り離され、活性型エストロゲンとして循環系に吸収(再利用)される可能性があります。
腸内細菌叢の異常により脱抱合を行う腸内細菌の存在量が変化してしまうと、体内のエストロゲン存在量の恒常性が崩れアンバランスにつながると考えられています。
実際に、ある研究において健常者群と進行期の子宮内膜症患者群の腸内細菌叢を比較した結果、子宮内膜症患者群ではEscherichia属の占有率が高いことが観察されました3)。
このように、腸内細菌叢の異常から子宮内膜症を引き起こすと、それにより不妊症につながる可能性があるのです。
腸内細菌叢の異常によるエストロゲンのアンバランス
さらに、エストロゲンのアンバランスは不妊症とより直接的に関連する可能性があります1)。
例えばエストロゲンは、子宮内膜の厚さと質、つまり胚の着床に影響を及ぼすため、アンバランスな状態では生殖能力に直接影響を与える可能性があります。
また、月経はエストロゲンを含む女性ホルモンの変動によって起きるため、エストロゲンのアンバランスは月経不順にもつながるでしょう。
月経不順により、着床のタイミングといった受精卵に対する子宮内膜の受容性に影響を与える可能性も懸念されます。
以上のように、腸内細菌叢の異常は、子宮内膜症の発症やエストロゲンのアンバランスに関連し、それが不妊症へとつながる可能性があるのです。
この他にも、腸内細菌叢の異常は、膣内細菌叢(膣内フローラ)の乱れに関連し不妊につながる可能性や、不妊の原因のひとつである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にも関連することが知られています。
これらについては次回のコラム「不妊症と腸内細菌〈中編〉」でご紹介いたします。
なお、本コラムで示された「エストロゲン」ですが、このエストロゲンに似た働きがある物質として、「エクオール」が知られています。
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また、別コラム「エクオールを腸内生成できない理由」では、エクオールと腸内細菌の関係についてご紹介していますので、そちらも是非ご覧ください。
参考文献
1)Salliss, M. E. et al. Hum. Reprod. Update 28, 92–131 (2021).
2)Bulletti, C. et al. J. Assist. Reprod. Genet. 27, 441–447 (2010).
3)Ata, B. et al. Sci. Rep. 9, 2204 (2019).
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