おならがよく出る原因は腸内細菌のせい?
日常的な生理現象である「おなら」の回数やにおいが気になることはないでしょうか?
実はこれは単なる一時的な不調ではなく、腸内細菌が深く関与している可能性があります。
本コラムでは、まずおならの回数が増加する主要な要因について解説します。
また、見過ごされがちな腸内細菌とガス産生の関係性に焦点を当て、食品や特定の腸内細菌がどのようにガスの量やにおいに影響を与えるのかを掘り下げます。
そして最後に、日々の生活で実践できるおならを減らすための具体的な方法をご紹介します。
目次[非表示]
- 1.おならがよく出る原因は?
- 1.1.正常なおならの回数
- 1.2.おならが多くなる原因
- 1.2.1. 呑気症
- 1.2.2. ホルモンバランスの変化
- 1.2.3.ガスを発生させやすい食品の過剰摂取
- 1.2.4.消化器系疾患
- 2.腸内細菌とおならの関係
- 2.1.腸内細菌のはたらきとおなら
- 2.2.おならの回数や臭いに関わる腸内細菌
- 3.おならを減らす方法
- 3.1.よく噛んでゆっくり食べる
- 3.2.こまめな水分補給で便秘対策を
- 3.3.ガスを発生させやすい食品を控える
- 3.4.腸内環境を整える
- 4.まとめ
- 5.参考文献
おならがよく出る原因は?
おならが止まらない、いつもよりおならが多い…そんな時は周りの目が気になったり、何かの病気ではないかと心配になりますよね。
まずは正常なおならの回数やおならが多くなる原因について説明します。
正常なおならの回数
平均的な1日のおならの回数は14回程度で、25回程度までは正常の範囲内とされていますが、人によって回数や量、組成は異なり、個人差が大きいようです1)。
一般的に、おならは睡眠中よりも日中のほうが回数は多くなります。
日中は立ったり座ったりと姿勢が変わるため腸内のガスが移動しやすいためです。
また日中は食事を摂るため、食事の消化の過程でガスが発生し、おならが出やすくなります。
おならが多くなる原因
おならの回数が多くなる原因として次のことが考えられます。
呑気症
無意識に空気をたくさん飲み込んでしまう「呑気症」の人は、飲み込んだ空気が腸に溜まり、結果としておならが多くなることが知られています。
吞気症はストレスや早食いによって大量の空気を飲み込んでしまうことが原因といわれています。
ホルモンバランスの変化
女性の場合、ホルモンバランスの変化がおならの回数に影響を及ぼすことがあります。
排卵後から生理前の期間や、妊娠期間に増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)は腸の蠕動運動を抑制し、腸内の水分を体に溜め込もうとするため、便秘気味になりガスが溜まりやすくなります2),3)。
生理が始まりプロゲステロンが減少すると、抑制されていた蠕動運動が活発になることで溜まっていたガスがおならとして排出されます。
また、閉経に伴うホルモンバランスの変化によってもおならが多くなってしまうことがあるようです。
ガスを発生させやすい食品の過剰摂取
腸管内でガスを発生させやすい食品として、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい炭水化物を多く含む食品や、タンパク質や脂肪を多く含む食品などがあります4)。
次のような食品の過剰摂取はガスを発生させやすくします。
高FODMAP食品
大腸で発酵しやすい炭水化物はFODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides and Polyols)とも呼ばれており、FODMAPを多く含む食品には下記のようなものがあります。
【高FODMAPの食品例】
果物:リンゴ、桃、マンゴー、梨
乳糖:牛乳、ヨーグルト、ソフトチーズ、フレッシュチーズ
野菜:キャベツ、玉ねぎ、ブロッコリー、アスパラガス
穀物:全粒穀物(ライ麦や小麦など)、パン、パスタ
豆類:ひよこ豆、レンズマメ
甘味料:キシリトール、ソルビトール
ただし、これらの食品は一般的には健康に効果的でもあり、腸内環境を整える良い働きがあります。
特に高FODMAP食品の中には食物繊維が豊富なものも含まれており、この食物繊維は腸内細菌のエサとなって、健康に有益とされる短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)に分解されます。
一方、高FODMAP食品を過度に摂取したり、腹痛やお腹の張りなど過敏性腸症候群のような症状を感じつつ自身の体に合わない食品を食べ続けたりすると、お腹の調子がさらに悪化する場合があります。
どのような食品が合わないかは個々の体質や腸内フローラによって異なるため、自身の腸内フローラを知ることが大切です。
乳製品
牛乳や乳製品に含まれる乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足している乳糖不耐症の人では、小腸で分解しきれなかった乳糖が大腸で発酵され、ガスが発生するためおならの回数が増えたり、下痢や腹痛の症状が現れたりします5)。
日本人はラクターゼの活性が低下している人が多く、これらの症状が現れる人が多いようです。
炭酸飲料
ビールや炭酸飲料は、腸内で二酸化炭素を放出するためおならが発生しやすくなります。
消化器系疾患
おならの回数が増えたり臭いがきつくなった場合、過敏性腸症候群や大腸がんなどの消化器系疾患が疑われる場合があります。
おならの回数増加や臭いが強い状態が続く場合や、腹痛などの症状を伴う場合には医療機関を受診しましょう。
また、逆にまったくおならが出なくなったりする場合は腸閉塞などの可能性もあるため注意が必要です。そのような場合も医療機関を受診することをおすすめします。
腸内細菌とおならの関係
おならの回数が増える原因の一つとして前述した過敏性腸症候群や大腸がんなどの消化器系疾患には、腸内フローラも関係しています。
また、腸内細菌がおならのもととなるガスを大腸で産生します。
ここでは、腸内細菌とおならの関係について詳しくご紹介します。
腸内細菌のはたらきとおなら
腸内細菌とおならは密接に関係しています。
おならの主な成分は窒素、酸素、水素、二酸化炭素、メタンなどのガスで構成されています。
窒素と酸素は主に食事の際に飲み込んだ空気に由来しますが、残りのガスのほとんどは腸内細菌の活動によって発生するといわれています。
腸内細菌によってつくられた水素や二酸化炭素などのほとんどのガスは無害であり、その大部分は腸管内の他の細菌に利用されたり、腸管粘膜によって吸収されて呼気として排泄され、一部はおならとして体外に排出されます。
おならの回数や組成に個人差がある理由は、腸内フローラの構成が個人間で異なり、極めて多様であることが関係していると考えられています。
健康な人の腸内細菌は1日あたり0.2~1.5リットルものガスを生成するとの報告もあります4)。
おならの回数や臭いに関わる腸内細菌
主に腸管内でのガス生成に関与しているのはBacteroidetes門(バクテロイデス門)とFirmicute門(ファーミキューテス門)の細菌ですが、これらの細菌はヒトの腸内細菌のほとんどを占めている一般的な細菌です。
これらの腸内細菌の一部は、小腸で消化吸収されなかった食事成分を分解し、その過程で健康維持に有益な酪酸、酢酸などの短鎖脂肪酸や乳酸を産生します。
しかし産生するガスが過剰となると、腹痛が生じたり、過度におならが出てしまうなどの不快感につながります。
また、腸内細菌が産生するガスには健康に悪影響を及ぼすものもあります。
例えば、メタン産生菌がつくるメタンガスは腸の蠕動運動を抑制するため、おならが増える原因となるだけでなく、大腸がんのリスクを高めるとの報告もあります4)。
そして、硫化水素産生菌がつくる硫化水素ガスは、おならの原因になるほか、炎症性腸疾患(IBD)や大腸がんに関与するとされています4)。
主な硫化水素産生菌を挙げると次の3つとなります。
・Desulfovibrio属(デスルフォビブリオ属)
・Bilophila属(ビロフィラ属)
・Fusobacterium属(フソバクテリウム属)
おならの臭いについては、以下のコラムでも詳しく紹介していますのでご参照ください。
コラム:「原因は腸の硫化水素産生菌?ゆで卵みたいな臭いのおなら」
おならを減らす方法
おならの回数は生活習慣を少し見直すことで減らすことができます。
おならが多いと感じている人は、次のような対策を試してみてください。
よく噛んでゆっくり食べる
ゆっくり食事をすることで飲み込んでしまう空気の量を減らし、おならの量を減らすことができます。
こまめな水分補給で便秘対策を
便秘気味の場合、おならの回数が増える傾向にあります。
こまめな水分補給をこころがけ、便秘にならないように注意しましょう。
特に女性は、生理前や妊娠中に蠕動運動が抑制されて便秘になりやすいため気をつけましょう。
また、蠕動運動を促進するには、適度な運動や規則正しい生活によって自律神経を整えることも効果的です。
ガスを発生させやすい食品を控える
おならを発生させやすいタンパク質や脂肪を多く含む食品、乳製品、炭酸飲料などを摂り過ぎている場合は、適切な摂取量になるよう調整しましょう。
また、高FDOMAP食を避けて、ガスを発生させにくいFODMAPが低い食品を意識することもおすすめです。低FDOMAP食品には次のようなものがあります。
【ガスを発生させにくい低FODMAPの食品例】
果物:バナナ、ブルーベリー、イチゴ
乳糖:無乳糖牛乳、ライスミルク、ハードチーズ
野菜:ピーマン、ニンジン、ナス、カボチャ
穀物:米、そば、グルテンフリー
豆類:木綿豆腐
甘味料:メープルシロップ
腸内環境を整える
腸内環境を整えることで、おならの回数や臭いを改善できる可能性があります。
ビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌など、いわゆる善玉菌といわれる腸内細菌は腸の蠕動運動を促進するため、便秘を解消したり、おならの回数を減らしたりする効果が期待できます。
これらの菌を増やすプロバイオティクスやプレバイオティクスを摂取することもおすすめです。
ただし、プレバイオティクスの中でも、高FDOMAP食品は過剰摂取にならないよう注意しましょう。
また、硫黄のような臭いの原因となる硫化水素は、含硫アミノ酸を多く含む食品(赤身肉、牛乳、卵、チーズなど)の摂取で増えるとの報告があります。
臭いも気になる場合はこれらの食品の摂取量が過剰にならないよう心がけましょう。
まとめ
おならの回数が多いことや、おならの臭いが強いことは、日々生活するうえでの不快感にもつながります。
様々な原因と対策をお示ししましたが、個々人によって腸内フローラは異なるので、自身に適切な対策が有効になるでしょう。
そのためには、自身の腸内フローラの構成やバランスを把握することが大切です。
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参考文献
1)Tomlin, J. et al. Gut 32, 665–669 (1991).
2)Bharadwaj, S. et al. Gastroenterol. Rep. 3, 185–193 (2015).
3)Liu, Z.-Z. et al. World J. Clin. Cases 10, 2976–2989 (2022).
4)Mutuyemungu, E. et al. J. Funct. Foods 100, 105367 (2023).
5)Leonardi M. et al. Int. Dairy J. 22, 88–97 (2012).
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