更年期の心身の不調には「腸内細菌叢の乱れ」が関与している——独自データから紐解くメカニズムと対策

更年期に差し掛かると、ほてりやのぼせ、動悸、不眠、気分の落ち込み……さまざまな症状が現れます。
その多くは「女性ホルモンの低下が原因」と説明されますが、なぜ女性ホルモンが低下すると体調が崩れるのか、そのメカニズムまで知っている方は多くありません。
近年の研究では、閉経に伴って女性の腸内フローラ(腸内細菌叢)が大きく変化し、その乱れがホルモンバランスの崩れをさらに加速させる可能性があることが明らかになってきています。
当社も独自の腸内細菌叢解析データをもとに同様の検証を行ったところ、先行研究と整合する結果が得られるとともに、独自の知見も得ることができました。
このコラムでは、更年期症候群と腸内細菌叢の関係について、先行研究の報告と当社の独自研究によって得られたデータをもとに解説します。
目次[非表示]
更年期症候群とは
更年期症候群の症状
更年期とは、一般的に閉経の前後5年ずつ、合計約10年間(45〜55歳前後)を指します。
この時期に現れる多様な不調を総称して「更年期症候群」と呼びます。
症状は非常に多岐にわたります。
ほてり・のぼせ・発汗・動悸・息切れといった血管運動神経症状、不眠・気分の落ち込み・イライラ・物忘れといった精神神経症状、肩こり・頭痛・腰痛・冷え性・浮腫・しびれ・ドライアイ・老眼などの身体症状、そして便秘・下痢・胃腸の不調といった消化器症状。
これらが重なり合い、日常生活に支障をきたすほど強い場合を更年期障害と呼ぶことがあります。
更年期症候群の期間
症状は閉経前後の2〜3年間にもっとも強く現れることが多く、多くの場合は閉経後数年で落ち着いていきます。
ただし、症状の種類・強さ・期間には個人差が大きくあります。
更年期症候群の原因——女性ホルモンの低下と腸内細菌叢の乱れ
更年期症候群の根本原因は、卵巣機能の低下による女性ホルモン(エストロゲン)の急激な分泌低下です。
エストロゲンは全身の臓器に作用するホルモンであるため、その低下は多様な症状を引き起こします。
中でも近年注目されているのが、エストロゲンの低下が腸内腸細菌叢にも直接影響し、腸内細菌叢のバランスが崩れるディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)を引き起こすという点です。
さらに、腸内細菌叢の乱れがエストロゲンの代謝にも関与することで、ホルモンバランスの崩れをさらに加速させるという負のサイクルが生じうることも指摘されています。
世界の研究が示す、閉経が引き起こす腸内細菌叢の変化
なぜ、エストロゲンの低下が腸内細菌叢に影響するのでしょうか。閉経が腸内細菌叢に及ぼす影響を調べた、先行研究を紹介します。
閉経で腸内細菌叢の多様性が低下する
Siddiquiらのレビュー(Biology, 2022)は、閉経と腸内細菌叢の関係について複数の研究を総括しています。
それによると、エストロゲンが十分に分泌されている状態では腸内細菌叢の多様性が保たれ有益菌が優勢ですが、閉経移行期には有益菌の存在量が著しく減少し、有害菌が増加することが報告されています。
また、閉経前後で腸内細菌叢の構成そのものが変化し、閉経後女性の腸内細菌叢は同年代の男性に近い構成へと変化することも示されています1)。
腸内細菌叢の乱れがエストロゲンの分泌低下を加速させる——エストロボロームの働き
特に注目されているのが「エストロボローム(Estrobolome)」という概念です。
エストロボロームとは、腸内細菌のなかでもエストロゲンの代謝に関与する細菌群の総称です。
これらの細菌はβ-グルクロニダーゼという酵素を産生し、肝臓で不活性化されたエストロゲンを腸内で再活性化することで、体内の循環エストロゲン濃度の調整に関わっています。
腸内細菌叢の多様性が低下するとこの働きが弱まり、エストロゲン濃度がさらに下がる可能性が指摘されています。
つまり、「エストロゲン低下→腸内細菌叢の乱れ→さらなるエストロゲン低下→更年期症状の悪化→さらなる腸内細菌叢の乱れ」という負のサイクルが生じうるのです1)。
短鎖脂肪酸産生能の低下と全身への影響
同レビューでは、閉経後に短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌の存在量が低下することも報告されています。
短鎖脂肪酸(特に酪酸)は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源であると同時に、腸管バリア機能の維持・免疫調節・炎症抑制に不可欠な役割を担っています。
このように、閉経は腸内細菌叢だけでなく、腸内細菌が産生する物質も含めた腸内環境全体に影響を及ぼすことがわかります。
さらには、その影響は、全身の炎症リスクや免疫機能にも関わりうると考えられます1)。
関連コラム
⇒腸内細菌の代謝産物「酪酸」の働き~酪酸菌とは?~
⇒酪酸菌を増やすには?増えすぎると危険?!
当社の独自研究で確認されたこと
先行研究が示す「閉経と腸内細菌叢の変化」は、当社の腸内細菌叢解析データを用いた女性健康者群と女性更年期症候群の腸内細菌叢を比較する独自の検証でも確認されました。
更年期症候群では腸内細菌叢の構成が大きく異なる
解析の結果、更年期症候群と健康者群では、腸内細菌叢の構成に明確な違いが見られ、更年期症候群では腸の健康維持に関与するとされる菌属が少ない傾向が観察されました。
先行研究で報告されている「閉経後に増加する傾向がある菌属」についても、当社の解析で同様の傾向が確認されており、先行研究の報告と整合する結果が確認できました。
腸内細菌叢の多様性の低下傾向
腸内細菌叢の多様性を示すShannon指数について、健康者群と比較して更年期症候群で低い傾向が見られました。この点も先行研究における「閉経に伴う腸内細菌叢の多様性低下」という報告と方向性が一致しています。
ただし、統計的な有意差は認められず、多様性の低下は傾向として存在するものの、個人差が大きいことが示唆されます。
疾病リスク推定モデルへの応用——独自の成果
当社は、更年期症候群と健康者群の腸内細菌叢の違いをもとに、更年期症候群の疾病リスク推定モデルの構築にも取り組みました。
解析によって特定された菌属の増減パターンをモデル化することで、腸内細菌叢の構成から更年期症候群のリスクを推定するという新たな方法を実現しています。
これは、「腸内細菌叢を調べることで、更年期症候群のリスクを把握できる」という点で、単なる症状の記録や問診とは異なる、客観的なデータに基づく更年期症候群に対するアプローチとなります。
腸内細菌叢を知ることが、更年期対策の第一歩
先行研究と当社の解析データはともに、更年期症候群における腸内細菌叢の乱れを示しており、腸内細菌叢を整えることが更年期に伴う心身の不調の予防・改善に向けた重要なアプローチであることを示しています。
しかし、腸内細菌叢の構成は個人差が大きく、「どの菌が多く、どの菌が少ないか」は人によって異なります。
一般的な腸活(発酵食品・食物繊維の摂取、プロバイオティクスの活用など)も有効ですが、腸内細菌叢の構成を正確に把握したうえで適切な食品を選ぶなどのアプローチが、より効果的なケアにつながります。
まとめ
更年期の不調には、エストロゲンの低下が腸内細菌叢の乱れを引き起こし、腸内環境が変化する影響が全身に波及するメカニズムが関与していることが明らかとなりつつあります。
「なんとなく不調が続いている」「更年期症状が辛い」という患者様には、まず患者様の腸内細菌叢を検査して更年期症候群のリスクを確認したり、腸内細菌叢全体のバランスを確認することを検討してみてください。
腸内細菌叢の構成から更年期症候群のリスクを知る——SYMGRAM
腸内細菌叢検査「SYMGRAM(シングラム)」では、腸内細菌叢の構成をもとに女性更年期症候群をはじめとする30以上の疾病リスクを推定することができます。
患者様一人ひとりの腸内細菌叢の実態を踏まえたケアの提案に、SYMGRAMをお役立てください。
引用文献
1)Siddiqui R, Makhlouf Z, Alharbi AM, Alfahemi H, Khan NA. The Gut Microbiome and Female Health. Biology. 2022; 11(11):1683. https://doi.org/10.3390/biology11111683






