人工乳で育つ乳児の腸内細菌叢(腸内フローラ)の特徴と人工乳開発 - 母子の腸内細菌叢④授乳【後編】
本コラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」として、妊娠・出産・授乳に至るまでの、母子の腸内細菌叢(腸内フローラ)についてご紹介します。
シリーズ第4回にあたる「授乳」をテーマとした前回のコラム(前編)では、母乳がビフィズス菌の供給源になることや、乳児の腸内細菌叢(腸内フローラ)の形成には母乳中のヒトミルクオリゴ糖やラクトフェリンが役立つことを説明しました。
帝王切開と経膣分娩では子供の腸内細菌叢に差異があることは以前のコラムでご紹介しましたが、この差が母乳によって小さくなることもわかっています。
(コラム「母乳が乳児の腸内細菌叢に及ぼす影響」「出産方法が赤ちゃんの腸内細菌叢に影響!?腸内細菌の母子伝播とは」参照)
今回のコラム(後編)では、人工乳で育った乳児の腸内細菌叢や、母乳に近い人工乳の開発などについてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.ミルクで育つ乳児の腸内細菌叢の特徴
- 2.母乳に近い人工乳の開発
- 3.最後に
- 4.用語解説
- 5.参考文献/参考資料
ミルクで育つ乳児の腸内細菌叢の特徴
母乳栄養児と人工栄養児(母乳の代わりに育児用調整粉乳のみで育てられた乳児)では腸内細菌叢が大きく異なります。
前編のコラムでご紹介した通り母乳栄養児ではビフィズス菌優勢の腸内細菌叢になるのに対し、人工栄養児ではビフィズス菌が属するActinomycetota門(アクチノマイセトータ門)ではないFirmicutes門(ファーミキューテス門)※aの細菌の割合が高くなり、成人と類似した腸内細菌叢となっています。
これまでの研究から、このような乳児期の腸内細菌叢の構成が、将来的にアレルギー、喘息、肥満などの疾病にかかるリスクにも影響を与える可能性があることが分かってきています1)、2)。
例えば、生後2年間にアレルギーを発症した小児では、非アレルギーの小児に比べ、生後1年目までの腸内のビフィズス菌の割合が有意に低かったことが示されています3)。
また、7歳児の時点で過体重の子供は、生後1年目でのビフィズス菌の検出率が標準体重の子供に比べ有意に低かったと報告されています4)。
いずれの研究からも乳児期の腸内細菌叢においてビフィズス菌が優勢(母乳栄養児の腸内細菌叢タイプ)であることが、健康維持にとって重要であることが示唆されています。
母乳に近い人工乳の開発
以上のように母乳は乳児にとって好ましい腸内細菌叢形成につながるものの、さまざまな事情から母乳を十分に与えることができない場合もあります。
そのような背景から、プレバイオティクス配合の人工乳や乳児用プロバイオティクス製品の開発が積極的に行われています。
例えば、ビフィズス菌を増殖させるプレバイオティクスとして難消化性のラクチュロースを配合した人工乳の摂取が良いとされています。
難消化性ラクチュロースにより乳児の腸内のビフィズス菌を増加させること、また、これに伴い腸内の有機酸濃度が増加しpHが低下することが報告されています5)。
その他にも、ガラクトオリゴ糖やフラクトオリゴ糖など複数種の難消化性オリゴ糖をプレバイオティクスとして配合した人工乳や、プロバイオティクスとしてビフィズス菌を配合した人工乳、また、通常の人工乳などに添加できるサプリメントタイプのプロバイオティクス製品も開発・商品化されているようです。
さらに、乳児の腸内細菌叢の形成に大切なヒトミルクオリゴ糖も、工業的に生産する技術の開発が行われています。
ヒトミルクオリゴ糖は複雑な構造と組成のために工業的な大量生産が困難でしたが、約250種といわれているヒトミルクオリゴ糖のうちの7種類が2024年時点で生産可能となっています6)。
2017年以降、欧米各国や一部のアジア諸国ではヒトミルクオリゴ糖含有の人工乳が商品化・販売されていることから、日本においてもそのような人工乳の商品化が待ち望まれているところです。
最後に
母乳が免疫系の発達していない乳児に免疫力を与えることは以前から知られていましたが、そこには乳児の腸内細菌叢の形成と、それによる免疫系の発達が関係していることが分かってきました。
このコラムでは「母子の腸内細菌叢シリーズ」として4回にわたり、妊娠、出産、授乳に至るまでの、母子の腸内細菌叢についてご紹介してきました。母体と乳児の腸内細菌叢について、より理解を深めたい方はそれぞれの記事をご覧ください。
腸内細菌叢は私たちの健康に大きく関わっています。
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用語解説
※a:Firmicutes門は、最新の分類ではBacillota門(バシロータ門)に変更されています。
参考文献/参考資料
1)Milani, C. et al. Microbiol Mol Biol Rev 81, e00036-17 (2017).
2)van den Elsen, L. W. J. et al. Front Pediatr 7, 47 (2019).
3)Björkstén, B. et al. J Allergy Clin Immunol 108, 516–520 (2001).
4)Kalliomäki, M. et al. The American Journal of Clinical Nutrition 87, 534–538 (2008).
5)堀米綾子 et al. 腸内細菌学雑誌 vol. 33 1–14 (2019).
6)氏原哲朗 et al. Glycoforum 25, A7J (2022).
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