女性だけでなく男性の不妊にも腸内細菌叢が関連―不妊症と腸内細菌叢〈後編〉―

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不妊の原因は多岐にわたりますが、それらは男性に原因がある場合と女性に原因がある場合に分けられます。
 
近年の研究では、腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常(ディスバイオシス)が不妊に関連することが明らかとなってきました。
 
本コラムのシリーズでは、前編中編を通じて女性の不妊症と腸内細菌叢の関連性をご紹介しました。
 
今回の後編のコラムでは、男性不妊と腸内細菌叢の関連性についてご紹介します。
 
不妊症の原因の約半分は男性にあるといわれており1)、男性では主に、精子に関する問題や勃起不全(ED)などが不妊症の原因とされています。
 
これらの原因と腸内細菌叢の関連性や、腸内細菌叢に基づく男性不妊症の治療の可能性についてご説明します。


目次[非表示]

  1. 1.免疫系の活性化(炎症)を介した精子への悪影響
  2. 2.インスリン抵抗性を介した精子形成への悪影響
  3. 3.腸内細菌叢とED
  4. 4.腸内細菌叢に基づく男性不妊症の治療の可能性
  5. 5.不妊症の予防のためにも腸内細菌叢を整える
  6. 6.用語解説
  7. 7.参考文献


免疫系の活性化(炎症)を介した精子への悪影響

マウスを用いた研究によると、高脂肪食マウスの腸内細菌叢を普通食のマウスに移植した結果、普通食のマウスの腸管内でBacteroides属(バクテロイデス属)とPrevotella属(プレボテラ属)が著しく増加することがわかりました。
 
Bacteroides属とPrevotella属の増加に関連し、精巣上体に局所的な炎症が起こり、その結果、精子形成と精子運動性が大きく低下したことが報告されています2)
 
また、このような腸内細菌叢の異常は、腸上皮のバリア機能を破壊し、細菌由来のリポ多糖(LPS)など炎症関連物質の全身循環への漏出につながります。
 
この炎症関連物質は、精巣や精巣上体に到達することにより、免疫系の活性化による炎症を引き起こす可能性があります3)


インスリン抵抗性を介した精子形成への悪影響

インスリン抵抗性※aは、腸内細菌叢の異常と強く関連することが知られています。
 
インスリン抵抗性はさまざまな性ホルモンの分泌に影響を与えるため、結果として精子形成に悪影響を及ぼす可能性があります3),4)


腸内細菌叢とED

腸内細菌叢の異常は勃起不全(ED)にも関連している可能性があります。
 
EDの糖尿病モデルラットでは、腸内細菌関連代謝物であるTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)や細菌由来のLPSなど、炎症因子の血清濃度が高いことが報告されました3),5)
 
TMAOは血管炎症を促進することが知られている物質です。
 
この研究結果からは、腸内細菌叢の異常が血清TMAO濃度を上昇させ(=血管の炎症促進に寄与する)、それが海綿体内皮細胞や平滑筋細胞の損傷につながり、最終的にEDの発症と進行につながる可能性があるのではないかと考えられています。
 
ただし、この研究では糖尿病を前提としているため、腸内細菌叢とEDの関連についてはさらなる研究が必要です。


腸内細菌叢に基づく男性不妊症の治療の可能性

腸内細菌叢と男性不妊症の病態との関連が明らかになったことで、近年では腸内細菌叢に着目した男性不妊症治療の可能性についての研究も行なわれています。
 
例えば、精子の運動率が低い状態である精子無力症の男性にプロバイオティクス※bLactobacillus rhamnosus (ラクトバシラス・ラムノサス)CECT8361株とBifidobacterium longum (ビフィドバクテリウム・ロンガム)CECT7347株)の経口摂取を行なった結果、精子の運動性などが大幅に改善されたことが報告されています6)
 
マウスを用いた研究では、化学物質の影響で生殖能力が低下したマウスにプレバイオティクス※cとしてアルギン酸オリゴ糖を摂取させた結果、腸内細菌叢の改善があり、精子形成の回復が報告されました7)
 
これらの研究結果は、腸内細菌叢の異常が精子の異常に関連しており、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどによる腸内細菌叢の改善により、精子異常(不妊症)を治療できる可能性があることを示唆しています。
 
ただし、こちらも現時点では研究段階であるため、実用化にはさらに多くの研究が必要とされています。


不妊症の予防のためにも腸内細菌叢を整える

男性と女性で、不妊症につながる原因は異なります。
 
しかし、腸内細菌叢の異常は男女に共通して不妊症の原因に影響を及ぼす可能性があります。
 
このため、不妊症予防のための基本として、腸内細菌叢を整えることを意識して日常生活を過ごすことを挙げることができます。
 
日常生活の中では、特に食事が腸内細菌叢に大きく影響します。
 
例えば、西洋食などの高動物性タンパク質、高脂肪、低食物繊維の食事ばかりが続くと、腸内細菌叢の乱れにつながる可能性があるでしょう。
 
一方で、さまざまな食材が含まれた栄養バランスの良い食事をとると、腸内環境を整えることや、良い状態を維持することにつながります。
 
食事以外においても、十分な睡眠や適度な運動を意識し、ストレスをためないことなどが腸内細菌叢にはプラスです。
 
パートナーの方と一緒に取り組めば、腸内細菌叢を意識した日常生活も楽しく、妊活の効果も1人で取り組んだ時より一層期待できるでしょう。
 
ただし、腸内細菌叢の状態は明確に目に見えるものではないため、ご自身の状態が気になる方は一度調べてみるのがおすすめです。
 
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社では、腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM(シングラム)」を提供しています。
 
腸内細菌叢の評価だけでなく、腸内細菌叢を改善するための推奨食品についても個別にご案内いたします。
 
腸は第二の脳とも呼ばれるほど、身体だけでなく精神面の健康にも影響が大きい部位です。
 
妊活だけでなく、全体的な健康にも通じるため、心身ともに健やかに過ごすための腸活に取り組むことが大切です。


用語解説

※aインスリン抵抗性
膵臓から分泌されたインスリンに対して感受性を示さなくなる病態のこと8)。インスリン抵抗性は、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、テストステロンなどのさまざまな性ホルモンの分泌に影響を与えることが報告されている3),4)
 
※bプロバイオティクス
生菌として摂取し、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを改善し、健康に有利に働く微生物のこと9)
 
※cプレバイオティクス
腸内の有用菌の増殖ならびに活性を促進することで、大腸の腸内フローラバランスを改善・維持し、宿主の健康に寄与する食品成分のこと9)


参考文献

1)今中聖悟. 産婦人科の進歩 72, 302–302 (2020).
2)Ding, N. et al. Gut 69, 1608–1619 (2020).
3)Wang, Y. & Xie, Z. Andrology 10, 441–450 (2022).
4)Ashonibare, V. J. et al. Front. Immunol. 15, 1346035 (2024).
5)Li, H. et al. J. Huazhong Univ. Sci. Technolog. Med. Sci. 37, 523–530 (2017).
6)Valcarce, D. G. et al. Benef. Microbes 8, 193–206 (2017).
7)Zhao, Y. et al. Theranostics 10, 3308–3324 (2020).
8)栗原悠介. ファルマシア 58, 174–174 (2022).
9)萩達朗. 日本食品科学工学会誌 70, 309–309 (2023).



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